第31話

マサシはうつむいて授業を聞いていた。



先生の話をどれだけちゃんと聞いていても、マサシには理解できない。



だからなるべく目立たないように座って当てられないように気を付けているのだ。



しかし、マサシは勉強ができると思い込んでいる先生は何度もマサシを指名した。



「次の問題をお願いね」



そう言われて黒板の前に立つものの、少しもチョークをすすめることができない。



やがて小刻みに震えだしたマサシは「わかりません」と消え入りそうな声で言って自分の席へ戻っていく。



代わりに答えるのはチナだった。



チナは自信満々に手をあげてスラスラと回答する。



そしてクラスのみんなから歓声を浴びるのだ。



5時間目のクラス会ではまたマサシがまとめ役に選ばれた。



けれど教卓の前に立ったマサシはもごもごと口の中でなにかを呟くだけで、みんなをまとめるようなことはできなかった。



代わりにリーダーシップを取るのはノリコの役目になった。



ノリコは全員の意見を綺麗にまとめて、そして自分でも輪の中に入って頑張った。



タカヒロはあっという間にサッカー部のエースに返り咲き、サマシが試合に出る話しは消えていった。



女子たちはヒデアキの机の周りに群がって、マサシに近づいてくることはなくなった。



すべての才能を失ったマサシが転落するのは早かった。



再び誰からも相手にされない毎日がやってきた。



教室の片隅で、できるだけ存在感をなくして時間をつぶすだけの毎日。



それでも時々ちょっかいを出されて『根暗マサシ』と噂をされて笑われる。



そのたびにマサシは唇を引き結んで我慢した。



一体俺がなにをしたんだ。



なにもしていないのにどうして俺のことを笑うんだ。



そう思っても声には出せなかった。



そんな勇気、とっくになくなってしまっていたのだった。


☆☆☆


それから3日ほどが経過したとき、マサシはまた机の上にボードゲームを広げていた。



みんなに戻ってしまった才能をまた回収しようと決めたのだ。



才能さえあれば自分だって注目されるとわかったのだから、このゲームを使わない手はない。



幸い、このゲームに誘われた人間は断れないようになっている。



今回だってうまくいくはずだった。



「俺とゲームしてよ」



放課後、教室から出ようとしていたチナの肩を叩いてそう言った。



チナは立ち止まって振り向いたが、マサシの顔を見るなりすぐに教室から出ていってしまった。



あれ、おかしいな?



前回は嫌な顔しながらもゲームをプレイしたはずなのに。



疑問に感じながらも次はタカヒロに声をかけた。



しかし、結果は同じだった。



前回の4人に声をかけても、みんな同様の反応しか見せない。



まさか、1度ケゲームに誘った人間を2度、3度誘うことはできないんだろうか?



そう思って説明書を読み直してみたけれど、そんなことは書かれていなかった。



その時だったクラスの女子が「あれ、どうして耳栓なんてつけているの?」とヒデアキに聞いているのを目撃した。



ヒデアキは一瞬ビクリとした顔を浮かべたが、そのまま教室から逃げ出してしまった。



あいつら、耳栓をつけてたんだ!



もう二度とゲームに誘われないようにしていたとわかり、憤りを感じる。



これじゃ才能を奪うことができない!



焦りに似た感情が湧き上がってきたとき、廊下から他のクラスの生徒たちの声が聞こえてきて視線を向けた。



それはC組の男子生徒たちで、みんな顔が良くて勉強がよくできることで有名なメンバーだった。



マサシは彼らを見てゴクリと唾を飲み込んだ。



自分より才能のある人間は沢山いる。



なにも同じクラスの生徒に絞る必要はないのだ。



しかし、人見知りな性格をしているマサシはなかなか動き出すことができなかった。



3人組の男子たちは談笑しながら歩いて行ってしまう。



このチャンスを逃したら、もうダメかもしれない!



マサシは自分を叱咤して勢いをつけて教室から飛び出した。



「ねぇ、君たち!」



廊下を歩いていた3人組が立ち止まり、振り返る。



マサシは3人組のことを知っていたけれど、3人はマサシのことを知らないようでまばたきを繰り返している。



「あ、あの。よかったら、俺とゲームしない?」



思わず声が裏返ってしまった。



3人は目を見交わせていたが、やがて笑顔で「あぁ、いいよ」と、頷いたのだった。


☆☆☆


「ゲームを始める前に説明を読ませてくれよ」



一番背の高い野瀬という男子生徒が説明書を取り上げて読み上げはじめた。



「あたりのマスに止まったら、プレイヤーの才能を奪い取ることができます」



「なんだそれ?」



「そう書いてあるんだよ」



3人は顔を寄せ合って説明書に見入っている。



「なぁもういいだろ。早く始めよう」



マサシは3人から説明書を奪い取ってサイコロを握りしめた。



「おい、順番はジャンケンで決めるんだろ?」



「時間が掛かり過ぎなんだ。俺が最初にやる」



どうせ最初の方はあたりのマスまでが遠い。



誰がどの順番でサイコロを振っても関係ないのだ。



とにかく早くゲームを進めたいマサシは誰の言葉も聞かずにサイコロを振ってしまった。



チッ。



出た目は1だ。



これじゃ全然進まない。



「これってさ、本当に相手の才能を奪うことができるのか?」



プレイしながらそう質問されたのでマサシは曖昧に誤魔化した。



「そう言えばタカヒロが突然サッカーが下手になったよな。それで、こいつがうまくなったんだ」

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