第24話
翌日の4時間目はクラス会だった。
今後のクラス目標を決めたり、係をしていく上での困りごとなどをまとめる時間だ。
こういう時に前に立つのは決まってノリコだった。
ノリコのリーダーシップは先生からも認められているので、司会進行を任されているのだ。
しかし、今日のノリコはどこか様子が違っていた。
机から教卓へ行くまでの間にもうつむいていて、もじもじして気弱そうに見える。
教卓の前に立ったノリコは一気に顔を真赤にして、なにも言えなくなってしまったのだ。
「どうした? 体調でも悪いのか?」
普段とは様子が違うノリコに先生が心配そうに声をかける。
「はい……ちょっとだけ……」
ノリコは消え入りそうな声で返事をした。
みんなの前に立っているというだけで心臓が破裂してしまいそうなほど早鐘を打っている。
みんなの視線が自分に集まっていると思うと緊張して、喉がカラカラに乾いていった。
「仕方ないな。代わりに司会ができるヤツいないか?」
先生の言葉を待っていたかのようにマサシは手をあげていた。
「マサシが?」
「できるのかよ」
あちこちからそんな声が聞こえてきても全然気にならなかった。
先生からの返事を待つこともなく、教卓へ向かう。
「俺が代わるから、保健室に行ってこいよ」
そう声をかけるとノリコは一瞬マサシを睨みつけてから、逃げるように教室を出ていってしまった。
教卓の前に立ったマサシは背筋を伸ばしてクラスメートたちを見つめた。
少し高い教卓の上からみんなを見ると、まるで自分が偉い人間にでもなったような気分だった。
「では、クラス会をはじめます」
マサシはよどみなくそう言ったのだった。
☆☆☆
「それでは今季のクラス目標は『何事にも全力で努力をする』ということで決まりました」
マサシは黒板に書いた目標を赤いチョークで囲む。
クラス内からは拍手が沸き起こった。
「すごいなサマシ。まだ15分も残ってるのにもう決まったなんて」
「本当だね。ノリコのときよりもスムーズだったんじゃない?」
「そうかも! 係の問題だって全部解決したもんね。今までこんなことなかったよ」
クラスメートたちは口々に称賛の声を上げる。
マサシはチラリとノリコへ視線を向けた。
クラス会が始まってすぐに保健室へ行ったノリコだったが、やっぱり司会進行が気になったのか途中で戻ってきていたのだ。
ノリコは唖然とした表情をマサシへ向けている。
まさか本当にクラスをまとめることができるなんて思ってもいなかったのだろう。
マサシは自信満々に笑みを浮かべて自分の席へと戻っていったのだった。
クラスのみんなは最近のマサシの活躍ぶりを称賛している。
けれどそんなマサシを見ていて不機嫌そうなのは、ゲームに参加した4人だった。
放課後になり帰宅する前にマサシに声をかけてきたのはヒデアキだった。
「なぁ、みんなに才能を返した方が良いんじゃないのか」
「は? なんでお前がそんなこと言うんだよ」
ヒデアキの才能はまだ頂いてないから、関係ないはずだ。
「ノリコもチナも、泣いてたぞ」
そう言われて視線を2人へ向けると、たしかに目の辺りが赤くなっているような気がした。
だけどそれが自分のせいだとは限らない。
少しだけ可愛そうかもしれないと思うけれど、才能はすでに奪ってしまったのだから仕方がない。
「ゲームに負けたんだから仕方ないだろ」
冷たく言い放ち、そのまま帰ろうとしたけれどドアの前に立ち塞がられてしまった。
「なんだよ、帰らせろよ」
背の高いヒデアキを睨みあげるが、ヒデアキは少しの怯んでいる様子が見られない。
「いいから、もう1度ゲームをして取り返せばいいんだろ?」
ヒデアキは強引にマサシの手を引いて、教室内へと戻っていったのだった。
☆☆☆
ボードゲームを前にしてマサシは不機嫌そうにマユを寄せていた。
周りにいるのは泣きはらした顔のノリコとチナ。
そして怒った顔のヒデアキとタカヒロの4人だ。
このメンバーでゲームをしても、もう面白くはなかった。
あたりのマスは3つ。
そして3人分の才能を奪ってしまっているから、後は普通にゴールをして終わるだけなのだ。
他の4人はまだあたりのマスに止まる可能性が残っているので、本当に奪い返されてしまうかもしれない。
「このゲーム、最初からやろうか」
ジャンケンする直前でマサシがそんなことを言い出して他の4人は目を見交わせた。
「それは不公平だよ。ちゃんと最後までゲームを終わらせてからやらなくちゃ」
そう言ったのはノリコだ。
いつもはもっと堂々と発言するノリコが、今はリーダシップを奪われているので、時々言葉をつまらせた。
それでも一生懸命喋ろうとしているから、なんだか痛々しく見えてしまう。
苦手なことを無理してやろうとするからだと、マサシは内心鼻で笑った。
「意見を言うことが苦手なヤツは黙ってろよ」
マサシはそう言い放つとみんなのコマを勝手にスタート位置まで戻してしまった。
「なにすんだよ」
さすがにタカヒロが睨みつけてくる。
しかしマサシは睨み返していた。
普段なら怖くて押し黙ってしまうところだけれど、今のマサシに怖いものはなかった。
自分は勉強もできるしスポーツもできるし、リーダーシップだって持っている。
みんなにない才能を持つ特別な人間なんだという気持ちが大きく育っていた。
「ほら、やるぞ」
わがまま勝手に振る舞うマサシはそう言ってサイコロを持ったのだった。
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