第22話
昼のご飯を食べ終えた後は30分ほどの自由時間になる。
運動が好きなタカヒロはさっそくサッカーボールを片手にグラウンドへ向かおうとしていたので、マサシが呼び止めた。
「これからボードゲームの続きをするんだ。やるだろ?」
一応質問してみるが、誘われれば断れないことはすでにわかっていた。
タカヒロは一瞬なにか言いたそうに口を開いたが、すぐに笑顔になって「もちろんだ」と、頷いた。
他のメンバーだちもそうだった。
マサシが誘えば断る人間は誰もいない。
あっという間に朝の4人がマサシの机の周りに集まってきた。
でも正直言ってもうチナには用がなかった。
頭脳を奪い取ったあとのチナにはなんの魅力もなくて、奪い取りたいものが残っていないのだ。
それでもゲームは終わっていないから呼ばないわけにはいかなかった。
「このゲームの説明書を見せて」
ジャンケンで順番を決めようとしたとき、ノリコがそんなことを言い出した。
「なんだよいきなり。早くゲームを始めようぜ」
「ダメよ。このゲームのルールを私達はちゃんと見てないんだから」
ノリコは説明書を見ないならゲームに参加しないと言い出した。
全くめんどくさい女だ。
マサシはため息をつきつつ、説明書をノリコに渡した。
そこにはあたりマスについての説明も書かれている。
「なにこれ。相手の才能を奪い取ることができるってどういうこと!?」
案の定あたりマスの説明を読んだノリコが声を上げる。
他の面々も説明書を読んで驚いた表情になった。
「だから前回、チナの頭脳を奪うとか言ってたのね。それで実際にチナの頭脳がマサシに移ったんだ」
「そんなことあるわけねぇだろ。そんな説明書、ただのお遊びに決まってる」
マサシはそう言うと説明書を乱暴に取り返した。
「あ、まだ最後まで読んでないのに!」
「うるさいな。早く始めるぞ」
マサシは強引にジャンケンをして、ゲームを進めたのだった。
☆☆☆
このゲームのルールがバレても、サイコロの仕掛けに気が付かなければ勝ったも同然だ。
そもそもあの説明書を読んですべてを鵜呑みにしたとも思えない。
ピーピーうるさいノリコだって、本当は半信半疑でゲームをしているのがわかっていた。
「あと2マスであたりだ!」
そういったのはタカヒロだった。
「本当だ。あたりに止まることができたら、この中の誰かの才能を奪うことができるんだよね」
ノリコが説明書を思い出しながら言う。
「タカヒロは誰の才能を奪うつもり?」
チナからの質問にタカヒロは迷いなくヒデアキを指差していた。
指さされたヒデアキは目を見開いている。
「やっぱりヒデアキの見た目がほしいよな。足が長くてスタイルもいいしさ」
「やめてくれよ。俺はこれを仕事にも使ってるんだから」
ヒデアキはブンブンと左右に首を振って嫌がっている。
この外見がなくなってしまえば、もうモデルとしての活躍もできなくなってしまうのだろう。
「よし、じゃあ振ってみるぞ」
タカヒロはそう言うとサイコロを振った。
勢いづいたサイコロは机の上から転がり落ちて、床で止まった。
「チッ。3だった」
出た目は3。
そう簡単にあたりには止まれないようになっている。
マサシは出た目を確認してホッと胸をなでおろした。
タカヒロにヒデアキの外見を奪われたら、自分はヒデアキからその外見を奪わないといけないことになる。
才能があちこちに行ったりきたりして、非常に面倒くさいことになりそうだ。
「次は俺の番だな」
マサシはサイコロを持った。
あたりの目まであと10マスはある。
ここでネリケシを使っても意味はなかった。
今回は普通にサイコロを振って4を出した。
徐々にあたりに近づいてきて、ゴクリと唾を飲み込む。
次はノリコの番だったけれど、やっぱりあたりには止まらなかった。
「なかなかあたりに止まらないね」
残念そうな顔をチナへ向けて言う。
チナの頭脳をマサシから取り返すつもりなのかもしれない。
そうはさせない。
このメンバーを選んだのは、みんなの才能をすべて自分1人のものにするためなんだから。
続くチナもあたりに止まることなく、終わりあっという間に一周してきた。
よし、次だ!
マサシはサイコロを握りしめてそっとネリケシをひっつけた。
出したい目は6。
だから裏側の2にくっつけるのだ。
昔マジックをやっていたマサシの手際はよく、誰にも怪しまれることもなかった。
少し強めにサイコロを振ってわざと自分の足元に転がした。
みんなが床に転がるサイコロを見つめる。
「よし、6だ!」
6で止まったのを確認してもらってから手早く回収し、ネリケシを外した。
サイコロの2の面が少し粘つくけれど、このくらいなら気が付かれないはずだ。
「嘘でしょ。またあたりに止まるの!?」
ノリコが驚愕の声を上げる。
マサシはその声を歓声のように聞きながら、コマを動かした。
「仕方ないよ。運は俺に味方をしたんだ」
マサシはあたりの上でコマを止めた。
みんなの視線がマサシに集まる。
まだ才能を奪われていない3人はひどく怯えた表情を浮かべた。
「さて、ここに止まったら誰かの才能を奪わないといけないんだけど、どうしようかな?」
わざとらしく3人を見つめる。
3人はマサシと視線が合いそうになると慌ててそらした。
そんなことをしても逃げることはできないのにと、プッと吹き出して笑ってしまった。
「そうだなぁ。俺、勉強も苦手だけどスポーツも苦手なんだ。少しくらい活躍してみたいって思ってるんだけどなぁ」
マサシの言葉にビクリと体を震わせたのはタカヒロだった。
青ざめた顔でマサシを見ている。
「やめてくれ。俺からサッカーを取ったらなにも残らないんだ!」
「そっか。いいね、サッカーがあって。俺には最初からなにもないんだよ?」
その言葉にタカヒロは絶句した。
なにも持っていないマサシには失うものがなく、恐怖なんて感じないのだ。
それはマサシにとって強みでもあった。
「俺はタカヒロからスポーツの才能を奪う」
マサシの声が教室中に響き渡ったのだった。
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