第21話

☆☆☆


「マサシ、お前って頭よかったんだな」



英語の授業が終わった後、後ろの席の男子が感心したように声をかけてきた。



普段は挨拶程度しかかわさない相手だ。



「少し勉強をしただけだよ」



マサシはいい気分で答える。



あの後チナが先生に当てられていたけれど、その質問に答えることができなかったのだ。



『誰か、この問題を解ける人は?』



その質問にマサシが手をあげた。



チナが一番得意としていた英語を、マサシが奪い取ってしまったからだ。



だけど周りの生徒たちはそんなこと知らない。



マサシがすごく勉強をしたのだと思いこんでいた。



「さっき私になにをしたの?」



そう聞いてきたのは青ざめた顔のチナだった。



「なにって、なにが?」



「とぼけないでよ。さっきのゲームで『チナから頭脳を奪う』とかなんとか言ってたじゃん」



トゲのある声でそういってきたのはノリコだった。



ノリコは腰に手を当ててマサシを睨みつけている。



「そう言ったからってなんだって言うんだよ? まさか、それでなにかが起こったとでも持ってるのか?」



マサシは強気に出てそう言った。



どうせ本当のことを言っても信じないのだから、適当に誤魔化せば良いんだ。



「とにかく、もう1度あのボードゲームを見せてみてよ」



「そのつもりだよ。でも次は昼休みの時間だ。その時にゲームの続きをやるから見せてやるよ」



マサシはフンッと鼻で笑って答えたのだった。


☆☆☆


なんの努力もせずに頭脳を手に入れたマサシは次の授業の数学でも大活躍をした。



まだ習っていない数式がおもしろいくらいに解けていく。



チナがどれほど頭がいい生徒なのか、改めて思い知らされた気分だった。



だけど今はもうこの頭脳はマサシのものだ。



学年1位2位を争う天才児はマサシだ。



「お前数学もできたんだな。よかったら教えてくれないか」



「私も勉強教えてほしい!」



「なんか今日はチナよりマサシ君のほうがずっといいよねぇ」



クラスメートたちは口々にそう言って、休憩時間のたびにマサシの机の周りに集まってきた。



クラスメートたちが悩んでいる問題はとても簡単で、マサシからすれば朝飯前の問題ばかりだ。



こんなものが解けないでよく生きていけるなぁと、内心感心したくらいだ。



「昼休憩にもっと詳しく教えてくれない?」


女子生徒にそう申出されて思わず頷きそうになったが、慌てて断った。



昼休憩にはボードゲームの続きが待っているんだった。



「ごめん、用事があるんだ」



マサシは申し訳無さそうな表情を浮かべて答える。



こんどは誰の才能を奪ってやろうか。



内心ではそう考えて、ニヤリとほくそ笑んでいたのだった。

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