第18話

昔はゲームをやりすぎちゃいけないと言われていたけれど、最近ではちゃんとした職業にもなっている。



将来的にプロゲーマーやゲーム関係の仕事につくことができたらいいなと、ぼんやりと考えていた。



「なんだよこいつ、めちゃくちゃ強いじゃん!」



ゲームを始めて30分ほど経過したとき対戦したことのないユーザーをぶつかった。



相手はかなり慣れた様子でキャラクターを動かし続ける。



マサシのキャラクターも機敏な動きを見せているものの、相手の動きについていくことができず、すきができたところで攻撃を連打で受けてしまった。



あっけなく倒されてしまった自分のキャラクターに大きく舌打ちをして、その場に寝転がった。



「あ~あ、どうせゲームの世界でも俺はダメ人間ですよーだ!!」



妬むように声をあげてもう1度舌打ち。



この世界でだけは誰にも負けない。



誰にも笑われないと思っていたのに、そんなプライドもずたずたにされてしまった。



しばらくゲーム画面を睨みつけていたマサシだけれど、乱暴に電源を切ると部屋から出た。



玄関を出ていくところで母親がリビングから出てきて「また遊びに行くの? 宿題は終わらせたんでしょうね?」と、声をかけてきた。



思わず『うるせぇばばぁ!』という言葉が喉からでかかる。



それをどうにか飲み込んで、返事もせずに家を出たのだった。


☆☆☆


あてもなくブラブラと歩いているだけで、周囲の歩行者たちが自分を見て笑っているように感じられる。



赤信号で止まった運転手は、その間に自分を見て笑っているし、横切っていく野良犬にまで笑われているような気がしてくる。



気がつけばマサシの歩調は早くなり、すべての生き物から逃げるように狭い路地へと足を進めていた。



思い出すのは才能に溢れるクラスイメートのことばかり。



みんなそれぞれに輝きを放っていて、それは唯一無二のように見えた。



それに比べて自分はどうだろう?



得意なことなんてなにもない。



得意だと思っていたゲームはついさっき惨敗してしまった。



好きな読書も周りの目が気になって集中することができなくなる。



自分にはなにもない。



そう思うと突然胸に風穴が相手しまったような虚しさを感じた。



自分なんていてもいなくてもきっと変わらない。



時々陰口を叩かれて笑われて、たったそれだけの存在なんだから。



「学校なんて行きたくねぇなぁ」



ぽつりと呟いて立ち止まる。



いっそこのままどこか遠くへ行ってしまおうかと本気で考える。



ポケットに突っ込んできた財布の中身を確認すると、千円札が1枚しか入っていなかった。



貯めていたお年玉はゲームソフトを買うのに使ってしまったのだ。



たった千円じゃ遠くに行くこともできない。



チッとまた舌打ちをした時、足元に冷気が絡みついてきて視線をあげた。



「え?」



そして視界に飛び込んできた光景に唖然とする。



さっきまで空き地だと思っていた場所に、中古ショップができていたのだ。



マサシは何度もまばたきをして目をこする。



けれど突如現れた中古ショップが消えることはなかった。



錆びたオレンジ色の看板に、黒いインクで『中古ショップ 妹尾』と書かれている。



「なんだこれ、こんな店なかったよな?」



キョロキョロと周囲を見回してみても、様子には変化は見られない。



ただ、空き地だった場所に以前からあったようにその中古ショップが立っているだけだ。



普段ならこんな気持の悪い建物には決して近づかないマサシだが、この時はなにかに導かれるようにして中古ショップへ足を進めていた。



冷気は店内から流れ出てきているようで、近づくに連れて寒気が全身を包み込んだ。



途中で入らないほうがいいと頭の中で警笛が鳴る。



しかし、マサシの足は何者かに操られるようにして店内へと入ってしまっていたのだ。



両手で重たいドアを押して中に入ると、途端に冷気は消えていった。



店内は照明で明るく照らされていて流行りの曲が流れている。



外から見た時と雰囲気が違い、マサシは少しだけ安堵した。



入って右手にある買取カウンターにも、その奥に見えているレジにも店員の姿は見えない。



けれど棚に並んでいるのはすべてゲーム機やゲームソフトなどで、マサシはすぐに飛びついた。



「すっげぇ! 年代物のゲームから最新のゲームまである!」



マサシがずっと欲しかったゲーム機もあったが、人気商品だけあってさすがに千円で買える値段ではなかった。



それでも棚を見ているだけで楽しくて、店の奥へ奥へと進んでいく。



気がつくと店の一番奥まで来ていて、そこの棚にはボードゲームやトランプゲームなどのコーナーになっていた。



「へぇ、この辺は安いんだな」



ただのトランプなどは50円から売られている。



これなら買うことができる。



様々な商品を手に取って見ていたとき、ふと大きなボードゲームが視界に入った。



「これも古そうなゲームだな」



箱の上にはホコリが被っていて、手で払うと舞い上がった。



少し咳き込んでからボードゲームのタイトルを確認すると『奪い取りゲーム』と書いているのがわかった。



陣地や相手の財産を奪い合うゲームなのかもしれない。



大人数でやるゲームだし、あまり興味はないかもしれない。



そう思って棚に戻ろうとしたとき、箱の側面に書かれているゲームの内容が目に入った。



・このゲームは「あたり」のマスに止まるとプレイヤーの1人から、その人のいいところを奪い取り、自分のものにできるます。



「いいところを奪い取るゲーム?」



最初に思っていた陣地や財産とはまた違ったゲームみたいだ。



更にその下を読んでみると、このゲームを購入した人は参加するプレイヤーを選ぶことができます。選ばれたプレイヤーは拒否できません。



「なんだこれ?」



マサシが奪い取りゲームをやろうと声をかければ、誘われた人間は断れないということだ。



これなら友達のいないマサシでも遊ぶことができる。



ためしに値段を確認してみると、10円と書かれている。



「安い!」



その瞬間マサシはこのゲームを購入する決断をしたのだった。

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