第15話
それでも猫の誘拐が相次いでいたこともあり、交番にいた警察官はすぐに動いてくれた。
「この家の男かい?」
先生の家の前まで来て、3人は足を止めた。
「そうです」
クニヒコは小声で答える。
今家の中から猫の声は聞こえてこないけれど、たしかにあそこに猫たちはいるんだ。
「わかった。確認してくるから君たちはここにいて」
警察官がそういった時、黒いゴミ袋を両手に下げた先生が家から出てきた。
それを見た瞬間クニヒコの背中がすーっと寒くなっていく。
まさか、もう遅かった?
視線はゴミ袋に釘付けになって離れない。
あの中身はなんだろう?
大量の死んだ猫たちが詰め込まれている場面を嫌でも想像してしまう。
警察官も少し険しい表情になり、ゴミ捨て場へ向かう先生に警戒しながら近づいていく。
「あの袋の中身、猫じゃないよな?」
タカシに言われてクニヒコは強く左右に首を振った。
そんなことあるわけない!
窓の奥の部屋から聞こえてきた鳴き声を思い出すといてもたってもいられなくなり、クニヒコは駆け出していた。
「おい!」
タカシが慌てて後を追いかけてくる。
先生と警察官は2人に背中を向けていてこちらに気が付かない。
2人は鍵の開いている玄関から中に入り、あの窓のある部屋を目指した。
大きな古民家で廊下が広く、危うく迷子になってしまうところだった。
それでもどうにか庭に面した部屋に出ると、そこは先生の書斎になっていることがわかった。
四方に本棚があって難しそうな本が所狭しと置かれている。
しかし猫の鳴き声はどこからも聞こえてこない。
早くしないと先生が戻ってきてしまう!
「クニヒコ、メガネで確認するんだ!」
クニヒコは汗でぬめる手でどうにかメガネをかけた。
途端にめまいを感じて目を閉じる。
そして次の目を開いた時、目の前にダンボールを持った先生が立っていた大きな悲鳴をあげた。
「クニヒコ大丈夫か? なにが見えた?」
「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」
心臓はバクバクと早鐘を売っている。
尻もちをついてしまいそうになるのをどうにかこらえて、先生の後に続いた。
先生が本棚の一つを手で押すと、それは磁石式の扉のように内側へと開いたのだ。
「隠し扉だ!」
テレビやアトラクションでしか見たことのない隠し扉にクニヒコは目を丸くする。
こんな家が本当にあるなんて、考えたこともなかった。
先生は隠された部屋の中にはいると、ダンボールを床に置いた。
その部屋は四方が壁に囲まれていて真っ暗だ。
目を細めてみてもなにも見えなかったが、異様な悪臭が立ち込めていることには気がついた。
クニヒコはその部屋に入ることができずに、手前の書斎から様子を伺う。
その時だった。
ミャーミャー。
暗闇の中からとても小さな鳴き声が聞こえてきて息を飲んだ。
ミャーミャー。
ミャーミャー。
途端に夢の中に出てきた猫たちのことを思い出して、胸が張り裂けてしまいそうになる。
「ヤバイ、クニヒコ! 先生が戻ってきたぞ!」
タカシに手をひかれて転がるようにして窓から庭へと脱出した。
その拍子にメガネが落ちて音を立てた。
「どうだった?」
電信柱まで戻ってきて、タカシが聞く。
クニヒコは大きく頷いて警察官へと視線を向けた。
そして今見てきた光景について、説明したのだった。
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