第14話
「だけど犯人に一番近いのはクニヒコだけなんだ。お前だけが犯人を見ているんだから」
タカシの言葉にクニヒコは目を大きく見開いた。
確かにそのとおりだ。
アパートの住人たちも少しは男の顔を見たことがあるかもしれないが、それは犯人として見たわけじゃないから記憶が曖昧になっているはずだ。
それに比べれはクニヒコはメガネをかけることで犯人を犯人だと認識して確認することができる。
「……そうだな。もう少し頑張ってみるよ」
それからクニヒコは再び部屋の中を探し始めた。
少しでも手がかりになるものが残っていないか、念入りに調べていく。
トイレや風呂場も確認してみたけれど、ほとんど使われた形跡がないことがわかった。
やっぱり、犯人はここには暮らしていなかったんだな。
そう考えたときだった。
玄関が開く音がしてクニヒコは振り向いた。
アパートの外廊下から男が入ってくるのが見える。
その手にはまた大きなダンボールが持たれていて、猫たちの鳴き声が聞こえてくる。
クニヒコは咄嗟に男の後を追いかけた。
男は段ボール箱を押入れの中に入れると、そのまま玄関へと戻っていく。
「クニヒコ、どこに行くんだ?」
「今男が現れたんだ。このまま後を追えば、あいつの家がわかるはずだ!」
クニヒコは叫ぶようにして答えると、男を追いかけてアパートを出たのだった。
☆☆☆
男は途中近所の公園に立ち寄るとサングラスや帽子、マスクを外し、服も着替えて再び歩き出した。
その顔を正面から確認してみようとしたが、足が早くてなかなか追いつかない。
そうこうしている間に大きな一軒家の前に到着していた。
赤い瓦屋根の庭の広い昔ながらの家だった。
男はその家に入っていくとピシャリと音を建てて玄関扉を閉めた。
「これがあいつの家か?」
呟き、メガネを外してみるとメガネ越しに見たのと同じ家がそびえ立っていた。
「この家が犯人の家か?」
「たぶんそうだと思う」
2人でそっと近づいてみると、門柱に吉田という石の表札が出ていた。
どこかで聞いたことのある名字だと感じたが、吉田なんてよくある名字だと思い直す。
「これからどうする? 警察に言うか?」
タカシに聞かれてクニヒコは左右に首を振った。
警察に連絡したとして、このメガネを信じてくれるとは思えない。
それに、クニヒコ以外の人間がメガネを使っても歴史を見ることはできないのだ。
「警察へ行く前に、証拠を取らないと」
「でもどうやって?」
男が猫を誘拐してくる場面を見ないといけない。
でも、今でも男が猫を誘拐してきているとも限らない。
考えあぐねて唇をなめる。
どうにかあの男が犯人だという証拠を集めることはできないだろうか。
そう考えたとき、庭先に1人の男が出てきて2人は咄嗟に近くの電信柱に見を隠した。
庭に出てきた男には見覚えがあり、思わず声をあげてしまいそうになった。
吉田という名字でどうしてすぐに思い当たらなかったんだろう!
その人物はC組の担任教師だったのだ。
庭先に出てきた先生はホースを使って花壇に水やりを始めている。
「クニヒコ、まさか犯人って……」
タカシが青ざめた顔で聞いてくる。
クニヒコは無言で頷いた。
先生は今帽子もサングラスもマスクもつけていない。
だけど背丈や雰囲気が犯人の男そのものだったのだ。
間違いないと思う。
クニヒコは頭の中で先生に帽子をかぶせたり、サングラスをかけたりして何度も確認した。
やっぱり、犯人のような気がする。
しばらく先生の行動を確認していたとき、開け放されたガラス窓の奥から猫の鳴き声が聞こえてきた。
それも1匹や2匹じゃない。
何匹もの鳴き声が重なって聞こえてくる。
先生はその鳴き声を聞いた瞬間弾かれたように部屋の中へと駆け戻ってしまった。
「今の猫の声聞いたか?」
タカシに聞くと、タカシは何度も頷いた。
「先生、まだ猫を誘拐してたんだ」
「でも自分の家に連れてきたらすぐにバレるのに、どうして?」
「たぶん、病気みたいなものなんじゃないか? やめたくてもやめられない。だからアパートから逃げ出した後も続けてるんだ」
クニヒコは早口にそう言うと、勢いよく駆け出した。
ただ猫を飼っているだけだと言われればそれで終わってしまうかもしれない。
だけど、先生はずっと猫をダンボールに詰め込んでいたのだ。
猫を虐待することが目的なら、今もダンボールにぎゅうぎゅうに詰め込まれて可能性が高い。
何度も聞いてきた猫のを声を思い出すといてもたってもいられなくなっていた。
そのまま近くの交番に駆け込んだクニヒコは慌てながら、怪しい男が家に沢山の猫を連れ込んでいるようだと説明をした。
要領を得ない部分は冷静なタカシが補助してくれた。
だけどもちろんメガネのことは言わなかった。
偶然男が猫を運んでいくのを目撃したと、嘘をついた。
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