第13話

その理由に思い当たって背筋がゾッと寒くなった。



長時間この部屋を見ていたくなくて、思わずネガネを外す。



いつもの風景が戻ってきてホッと胸をなでおろした。



「あの男は最低だ」



クニヒコは呟くように言ったのだった。


☆☆☆


翌日、アパートの玄関を出るとタカシが待っていた。



「もしかして俺を待ってたのか?」



慌ててかけよるとタカシは頷く。



2人で肩を並べて学校へ向かいながらも、話題に出てくるのは猫殺しの犯人のことばかりだ。



「絶対に捕まえたい。じゃないとあの猫たちはずっと成仏できないことになる」



タカシの言葉にクニヒコも頷く。



今日だって猫の夢にうなされて起きてしまったのだ。



あのアパートにいる間中あんな目にあうのはごめんだった。



「だけど犯人にたどり着くものがなにもないんだ」



「そうだな……。顔は見たんだろう?」



「いや、サングラスとかマスクで見えなかったんだ」



クニヒコは悔しそうに下唇を噛み締めた。



もう少ししっかり男の顔を見ておくべきだった。



「じゃあ犯人はかなり用心してたみたいだな。猫殺しのためにアパートまで借りてたんだもんな」



クニヒコは頷いた。



そんな相手が油断するとも思えなかった。



ああでもないこうでもないと話しながら歩いているとあっという間にC組にたどり着いていた。



一緒に登校してきたクニヒコとタカシを見てハルカが驚いた表情を浮かべている。



「クニヒコ君、いつの間にタカシ君と仲良くなったの?」



「え、別に仲良くなんて……」



と、否定しかけて途中でやめた。



今は唯一自分の言葉を信じてくれている友達だと思い直したのだ。



「そうだな。昨日からかな」



「昨日?」



ハルカは益々わからないといった様子で首を傾げている。



だけど詳細を話すつもりはなかった。



今回のことにハルカを巻き込むわけにはいかない。



「仲良くやってるから、気にしないで」



クニヒコはそう言って誤魔化したのだった。


☆☆☆


その日は放課後までがひどく長く感じられた。



クニヒコもタカシも、クラスメートたちに勉強を教えてほしいと言われてもずっと上の空だった。



なにか教えてあげた気もしたけれど、放課後になるとほとんど忘れてしまっていた。



「クニヒコ君、今日一緒に帰らない?」



カバンに教科書を詰めていたところにハルカがそう声をかけてきた。



普段のクニヒコなら、ハルカに誘われたことが嬉しくてすぐに頷いていただろう。



だけど今日はやることがあった。



ハルカの後にはタカシが立っていて、クニヒコのことを待っていたのだ。



「ごめん、今日はちょっとやらないといけないことがあるんだ」



「やらないといけないこと?」



「うん。また今度一緒に帰ろう」



クニヒコはそう言うとカバンを掴んでタカシと一緒に教室を出たのだった。



ハルカはその様子を不思議そうに見つめていたのだった。


☆☆☆


「昨日より衰弱してる」



アパートの押入れの中を確認して、メガネをかけているクニヒコは言った。



「そうか……」



「このままじゃ死んじゃうよ!」



それでも歴史を変えることはできない。



今自分たちがしていることは猫を助けることじゃなくて、未だ掴まていない犯人を特定することだった。



クニヒコは唇を引き結んで押入れの襖を閉じた。



猫たちの小さな声はすぐに聞こえてこなくなる。



そのくらい衰弱してしまっているのだ。



「まだ探していない場所があるんじゃないか?」



タカシに言われてクニヒコは左右に首を振った。



もう、このアパートの中は調べ尽くしたのだ。



少ない家具をすべてひっくり返すようにして調べて、それでも犯人も個人情報はどこにも見つからなかった。



これだけ気をつけている犯人がヘマをするとは思えない。

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