第5話

クニヒコはそっと身を屈めてメガネに手を伸ばす。



心臓が早鐘を打って全身に汗が流れていく。



伸ばした指先がメガネに触れた瞬間、電流が流れた気がして思わず手を引っ込めた。



指先を確認してみるけれど、特に変化はない。



きっと自分の気のせいだ。



ちょっとびびり過ぎているだけだ。



自分にそう言い聞かせてゴクリと唾を飲み込んで、再びメガネに手を伸ばす。



そっと触れてみると今度は電流が流れるような感覚はせずに、普通に持つことができた。



さっき落とした拍子に傷でも入らなかっただろうかと確認してみるが、それも大丈夫そうだ。



ひとまずホッと胸をなでおろして、しげしげとメガネを見つめる。



今見た映像はなんだったんだろう?



もう1度、確認してみる必要がある。



歩道の邪魔にならない場所まで移動したクニヒコは恐る恐るメガネをかけてみた。



その瞬間視界が歪み、めまいを感じたかと思った瞬間目の前には墓地が現れていた。



「嘘だろ……」



その光景に思わず呟く。



草が大きく茂った墓地の中には沢山の墓石が立っていて、中には斜めになって倒れかけている墓石もあった。



昔は土蔵だったから土の中で棺桶が腐敗して、こうして墓石が倒れることも珍しくはなかったのだ。



間違いない。



これはこの場所の歴史を映し出しているんだ!



クニヒコはまた生唾を飲み込んだ。



知らない内に呼吸も荒くなってきて、自分がすごく興奮しているのだとわかった。



「このメガネはすごいぞ……!」



メガネをかけたまま周囲を見回してみると、だだっ広い原っぱで間違いがなかった。



風が拭くと成長した草木がざわざわと不吉な音を立てる。



今クニヒコが歩いてきた道はどこにもないのに、車が行き交う音だけが聞こえてくる。



と、その時視界の右上になにか数字が書かれていることに気がついた。



1878という四桁の数字が1878年だということにすぐに思い当たった。



「今俺が見ている景色は1878年のものってことか。おじいちゃんだって生まれてないぞ」



クニヒコは舌なめずりをして景色を見つめる。



「クニヒコ君なにしてるの?」



そんな声が聞こえてきて驚いて振り向くと野っ原の中にハルカが立っていた。



「あ、いや、別に」



慌ててメガネを外してポケットに入れた。



「クニヒコ君ってメガネかけてるんだっけ?」



「いや……、あ、うん。そうなんだ」



「やっぱり勉強ができる人って目が悪くなるんだね。タカシ君も目が悪くなってきたって言ってたよ」



せっかくハルカが声をかけてくれたのにタカシの名前が出てきてクニヒコは複雑な気持ちになった。



「この辺は1878年頃、まだ墓地だったんだ」



「え?」



突然クニヒコに言われてハルカは眉を寄せる。



「この辺一体が全部だよ。道路も家もなにもない、広い墓地だ」



「ねぇクニヒコ君、そういうの私怖いからやめてほしい」



ハルカは自分の体を両手で抱きしめるようにして言った。



「でもそれが本当のことなんだ。俺はこの目で見たんだから間違いないんだよ」



「見たってどういう事? ねぇ、本当にやめて」



ハルカは顔をしかめてクニヒコから逃げるように駆け出してしまったのだった。

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