第4話
そう思っていると、しばらくしてタカシがスマホ画面をから顔をあげた。
「本来なら、一週間後に戻ってくる予定だったみたいだね。でも予定が早まったんだ」
そう言ってスマホ画面をみんなに見せている。
「本当だ! もうこっちに戻ってきているみたいだよ!」
そんな声が聞こえてきてクニヒコは慌ててみんなに近づいた。
そしてスマホに表示されている記事を読む。
『ミサイル、○○街へ戻ってくる!』
それは2日前の記事で、すでにこの街の郷土資料館にミサイルがあるという内容のものだった。
クニヒコは目を見開いてその記事を何度も読み直した。
「嘘だろ、そんなの知らない!」
「へぇ、クニヒコ君は歴史について詳しいのに、知らないこともあるんだね」
ハルカがクニヒコの隣で驚いた顔を浮かべている。
クニヒコは唇を引き結んでうつむいた。
歴史についてなら誰にも負けないと思っていたのに!
いつも部屋にこもって本を読んでいるから、ニュース番組を見そびれてしまっていたのだ。
「なんだよクニヒコ。まさか今までの情報も嘘だったとか言わないよなぁ?」
どこからか、からかう声が聞こえてくる。
すぐに振り向いたけれどそれが誰の言葉だったのかわからなかった。
「やめてくれよ。お前のせいで3年生になって赤点とかありえねーからさ!」
教室中に笑い声が渦巻初めて、クニヒコはそれから逃げるように教室を飛び出したのだった。
☆☆☆
僕があんなヤツに負けるなんてありえない。
歴史については僕が一番だったはずなのに!
C組から逃げ出したクニヒコはそのまま図書室へ向かった。
ここなら色々な資料が置いてあって、好きなだけ勉強をすることができる。
クニヒコはまっすぐにカウンター横の新聞コーナーへ足を進めた。
地元の新聞を引き抜いてテーブルに広げ、ミサイルについての記事を探す。
2日前の新聞までさかのぼって調べてみると、たしかにミサイルが戻ってきたという記事が出ていた。
完全に見落としていた記事だ。
これからは新聞もちゃんと読んで現代で何が起こっているのかも確認しておかないといけない。
次の授業開始のチャイムがなり始めても、クニヒコには聞こえずずっと新聞を読み続けていたのだった。
☆☆☆
歴史の勉強と現代社会の勉強は随分違うものだった。
意味のわからない言葉も沢山出てきたけれど、そのたびに辞書で引いて勉強をした。
気がつくと昼休憩時間になっていて、クニヒコはようやく本から顔をあげた。
図書室の先生に何度も教室へ戻りなさいと言われた気がするけれど、集中して読んでいたので記憶はあやふやだった。
「授業にはちゃんと出なさい!」
図書室を出る時に先生からそう叱られたので、よほど注意を受けたに違いなかった。
けれどクニヒコにはそんなことどうでもよかった。
今勉強してきた知識を少しでも早くみんなに披露したい。
その思いで早足でC組まで戻ると、すでにみんな給食の準備を終えていた。
「クヒニコ君どこにいたの?」
ハルカに言われて「勉強をしてたんだ。今度は現代日本の勉強だ」とみんなに聞こえるように言った。
「俺は歴史が好きで過去のことばかり勉強していたけれど、現代の日本や世界で起こっていることも大切だよな」
クニヒコがそう言うと、何人かの生徒が頷いてくれた。
元々勉強が得意な印象のクニヒコの周りにクラスメートたちが集まってくるのに、時間はかからなかった。
「今の総理大臣は香川さんだけれど、その前の総理が提案していたものがあって――」
「クニヒコ、お前本当によく調べてきてるな」
さっきクニヒコをからかった男子生徒が感心したように言う。
さっきから腕組みをして真剣にクニヒコの話を聞いていた。
「あぁ。勉強は好きだからさ。ハルカ、君もこっちにおいでよ」
手招きをすると通路に立っていたハルカは少し気まずそうな表情を浮かべて、両手で抱きしめるようにして持っていた数学の教科書を見せた。
「私、数学が一番苦手なの。だから、勉強を習うなら数学がいいの」
そう言うとタカシの机へと走っていってしまったのだ。
クニヒコは愕然としてハルカの後ろ姿を見つめる。
「そうだよなぁ。クニヒコの記憶力はすごいけど、受験にはあんまり役立たないよな」
「おい、やめろよ」
クニヒコを笑う声が、また少し聞こえてきたのだった。
☆☆☆
なんだよみんな。
あれだけ俺の周りに集まって、色々聞いてきてたくせにさ!
タカシのせいで俺の立場は台無しだ。
なんてこのタイミングでしゃしゃり出てくるんだよ。
帰宅途中、イライラした気分が抜けきらないクニヒコは歩道に転がっていた石を思いっきり蹴飛ばした。
石は大きく跳ね上がり、少し向こうに落下する。
「なんだよ。タカシのヤツ良いカッコしやがって」
ハルカがタカシと一緒に楽しそうに勉強している姿を思い出して、また思いっきり石を蹴飛ばす。
「ハルカだって、俺のことすごいって言ってたくせにさ」
文句を口に出すとまた腹が立ってくる。
もう1度石を蹴飛ばそうとしたとき、石の近くに黒縁のメガネが落ちていることに気がついた。
「メガネ……?」
しゃがみこんで見てみるとレンズがひび割れているわけでもなく、ツルもしっかりしている。
なんでこんなところにメガネが?
落としたのだとしたら持ち主は目が見えなくて困っているだろう。
そう考えたクニヒコは少し迷ってからメガネを拾った。
昼間雨が振っていたから少し濡れている。
制服のシャツで軽く拭い、メガネのレンズを覗き込んでみた。
視界がグニャリと歪んでめまいがする。
ちゃんと度が入っているみたいだ。
そう思った次の瞬間だった、レンズ越しに墓場が見えた気がしてクニヒコはすぐにメガネから視線をずらした。
そこには大通りと歩道があり、左右には民家とお店が混在しているだけだった。
気のせい?
首を傾げてもう1度レンズ腰に街の風景を確認する。
「やっぱり墓場だ!」
クニヒコは思わずそう叫んでメガネを落としていた。
レンズ越しに見えた景色は広い墓場。
だけど現代墓地みたいに整地されていなくて、野っ原にお墓が並んでいる状態だ。
クニヒコは取り落してしまったメガネをジッと見つめた。
背中に冷や汗が流れていく。
いつか調べた資料の中に、この辺一体は広い墓地だったと書かれていたことを覚えていた。
その墓地はクニヒコが生まれてくるずーっと前に移動させられ、人が暮らせるようになったのだと。
今自分が見た映像はその頃の映像じゃないか?
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