第3話 互いに、素直に4

「はいっ、終わった!」


 目の前にスマホを突きつけられた。


 言葉通り、女の人の連絡先もマッチングアプリも、綺麗になくなっていた。


「よくできました」


「ふへへへへへへへ」


 褒められたことが嬉しいのか、両想いになれたことが嬉しいのか、夏希さんは若干気持ち悪く笑った。


 私も自然と口角が上がっている。鏡を見なくてもわかります。


「んやー漸く両想いになれて嬉しいなあ」


 両手を頬に当てて、ぶりっ子かよ。可愛いけど。あざといけど。


「私も嬉しいです。ところで、」


 そういえば、確認しておきたいことがありました。


「いつから私のことが好きだったんですか?」


 聞くべきことは沢山ある。貴女についてなんにも知らないんだもん。

 仕事のこと、年齢、彼女が好きなもの。


 だけどね、やっぱり聞きたいじゃん。


 人生で初めての恋人の口から、今。


「一目惚れ!」


 いつも私の心をかき乱していた目の前の女性は、子どもみたいに目を輝かせてそう言った。


「マジですか」


「マジですマジです」


 おーん。これは、

「照れますね」


「うふふ、素直な季里ちゃんも可愛いねえ。これからはそういうところ、どんどん見せてね」


「善処します」


 いつもみたいに冷たく言ってしまったけれど、言葉に込めた愛情は、ちゃんと伝わったみたい。


 夏希さん、滅茶苦茶笑顔だもん。


「んふふふふ、私たち恋人になったんだねえ。嬉しっ」


 暑さで溶けたアイスクリームみたいに顔をとろけさせた彼女は、世界で一番幸せそうだった。


「そうですね」


 勿論私も、今この瞬間、世界で一番の幸せ者だと思う。


 ねぇ、美里姉さん。私の恋は叶ったよ。背中を押してくれてありがとう。

 後で報告の連絡を入れようと思いながら、


「だから、いろいろ教えてくださいよ。夏希さんのこと」

 素直になった自分の心を、愛しい人にさらけ出す。


「たしかに。今まで私が質問してばっかりだったもんね。うん、お互いのことを知っていこう」


「はい」


 出会い方も過程も間違いだらけだった私たち。

 これからお互いのことを知っていくうちに、嫌なとこ、見たくない本性が出てくると思う。


 それでも、私は夏希さんのことが好きで、愛が深まっていくんだろうなあ……なんて、思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る