第3話 互いに、素直に3/4

「……ふぇっ」


 彼女の目を真っすぐ見つめ、勇気を振り絞って言った。


 言葉は思っていたよりも甘くはなくて、ちょっと尖ってしまった。

 ごめんなさい。

 なにぶん、告白自体が人生初なので。


 だけど、私が不器用なこと、知ってるでしょ?

 散々カフェに連れまわしてきたんだから。


「……夏希さん?」


「……」


 無言。まさか「ふぇっ」が返事じゃないですよね。それは勘弁。


「夏希さん」


「……」


 おーい、そんなに無言だと不安になるんですが。

 いつもの自由奔放な貴女はどこにいったんですか。


 待って。

 耳が赤くなってる。

 えっ、ん、えっ?


「そんなに顔ガン見しないで」


 私の視線に耐えきれなくなったのか、慌てて顔を手で覆いましたけど、


「手遅れですよ」


 貴女の耳が、頬が薄っすら色づいているの、目に焼きついちゃってます。


「うぇーん……」


「えーっと」


 この反応は想定外です。笑顔で「季里ちゃんと恋人になるのは無理だなあ」とか「『好き』って言われて勘違いしちゃった?」とか、言われると思っていたので。


 勘違いじゃなければ。

 思い上がりでなければ。


「もしかして、私たちって両想い……ですか?」


「前から『好き』って伝えてたじゃんかあ」


 相変わらず手はどけてくれない。


「からかってるのかと思ってました」


「『本気』だって言ったじゃんかあ」


 言われましたよ。言われましたとも。


「それにしては、他の女の人の話をしてきましたよね。なんでですか」


「ごめん、それはさあ……季里ちゃんに嫉妬してほしかったからなんだよ。だってだってだって、季里ちゃんってばいっつも冷たかったじゃんかあ」


 さっきから、かあかあ、ばっかりだな。カラスなの?

 そんな反応も「可愛い」と素直に思えるぐらい、私は浮かれてる。


 両想いになれたんだもん。仕方ないじゃん。


「それはすみません」


 だから素直にもなる。優しくしてあげる。


「でも、これからはやめてくださいね。他の女の人をお金で買うの。あっ、私にお金を渡すのも」


「え、許してくれるの!?」


「他の女の人とのことですか? いいですよ、今すぐ関係をきれいさっぱり切ってくれるなら」


「やるやるやるやるやる」


 さっきまで照れていたのが嘘のように、夏希さんは素早くスマホを鞄から取り出して、連絡先を消去し始めた。


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