第2話 常識的に4

「まぁいいわ。四つ目、夏希さんに『好き』と言われたとき、どう思った?」


「……」


 答えなんてわかってるはずなのに。もう一度聞いてくるなんて意地悪だ。


「正直に」


 そんな追い打ちかけないでよ。


 膝の上に置いたこぶしにぎゅっと力を込め、

「……嬉しかった」

 素直に答えた。


「それじゃあ最後の質問」


 私の答えに返事をせず、坦々と質問を続けていた美里姉さんは、

「季里は、夏希さんに抱いている感情は、ありふれた『好き』? それとも『愛情』?」


 俯いていた顔を上げてみれば、姉さんは生徒を見守るように優しく微笑んでいた。


 大丈夫だよ。なんでも受け止めるよ。


 そう、言われたような気がした。


「私は――」


 ずっと隠しておくつもりだった言葉。本人に伝えるつもりがなかった気持ち。


 一般的な人生からはみ出ることが怖くて、誰にも打ち明けられなかった感情。


「そっか……季里なら大丈夫だよ。今みたいに、自分の気持ちに正直になりな」


 私の答えを聞いてた美里姉さんは、子どものときみたいに、優しく頭を撫でてくれた。


「うん、ありがとう」


 否定されても、怒られても仕方がないと思っていた。


 それなのに受け止めてもらえたことが嬉しくって。


「お金を貰っていることは常識的にどうかと思うけど」


 撫でる手をそのままに、

「世の中の意見なんてほっときな。自分が幸せになることを考えたらいいよ」

 温かい言葉をかけてくれることが嬉しくて。


 涙が溢れ出そうになる。


「季里の生き方は間違ってないよ。応援してる」


「うん……グスッ」


 差し出してくれたティッシュで涙やら鼻水やらを拭う。

 カッコ悪い。


 でも、今日ぐらいはいいじゃんね。


 泣いても笑っても、玉砕覚悟で立ち向かうための涙なんだから。


「ダメだったらすぐにうちにおいで。またオムライス作ったげる」


「うぅぅぅぅぅぅぅ……」


「ハイハイ、泣き虫な季里も大好きだよ」


 涙が止まらなくなった私の頭を、泣き止むまでずっと撫で続けてくれた。

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