第1話 デート?5
「美味しかったねえ」
今日何度目かわからない「美味しい」をお腹を叩きながら言った夏希さんは、
「はい、今日の分」
いつも通り諭吉を手渡してきた。
「ありがとうございます」
カフェに似合わないやり取り。
まぁ、このやり取りが似合う場所なんてないんだけど。
いや、あるか。キャバクラとかホテルとか。
私はそんなただれた関係になりたくないけど。
多分。
今は自分の気持ちに確証がもてない。
この人のことが嫌いなはずなのに。
お金で人の時間を買っているくせに、カラダを要求してこないことに安堵を覚えていたはずなのに。
物足りない、って考えてしまう。
「それじゃあ今日はもうお開きにしようか」
「はい」
本当はもっと一緒にいたい。
貴女のことをもっと知りたい。
自分の中の矛盾をどう処理すればいいのかわからない。
嫌いだけど好き。
でも、こちらが好意を示してしまえば、きっと夏希さんは離れていってしまう。
私に興味をもってくれているのは、他の女の人たちと違って貴女に『好き』を伝えないからだと思う。
カフェを出て、
「また連絡するね。気をつけて帰ってね」
柔らかく微笑む彼女に
「夏希さんもお気をつけて」
気持ちがバレないように背を向けて歩き出す。
いつから嫌悪が好意に反転したかなんてわからない。
自分のことは自分が一番わかってる。
なんて世の中の人は言うけれど、私は、私自身のことが一番わからない。
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