第1話 デート?4/5
「……季里ちゃん? どうかした?」
「あっ、いえ。なんでもないです」
回想にふけっていた頭を強引に現実に引き戻す。
「私はこの季節限定頼もうかなあ。季里ちゃんはどうするの」
「私も同じので」
「おっけー、んじゃあ注文しちゃうね」
夏希さんが店員さんを呼んで、勝手にパンケーキと一緒にコーヒーを頼むのを見ながら、再びあの日のことを考える。
傘を買った後、彼女は言った通りカフェに行って。
ケーキセットを食べ終え、「このままホテルに行くのでは?」と身構える私に、
「ホテルは行かないよ。本命の子とは。お望みなら行くけど」
と再びニコニコしながら言ったのだ。
勿論ホテルには行かなかった。
その代わり、無理矢理連絡先を交換させられて、それから頻繁に会うようになった。
変な大人に捕まってしまった。
後悔しても遅い。
お金を受け取ってしまっていたし。
なにより、5万円はデカい。
彼女が毎回お金をくれるおかげでバイトを減らすことができたのだから。
「お待たせしました」
店員さんの声がしたのと同時に、目の前にホイップがえげつないほど乗ったパンケーキとコーヒーが置かれた。
うん、絶対胃もたれするやつ。
「わーお。胃もたれしそうだねえ」
「そうですね」
悔しいかな。おんなじ思考。
「いただきまーす」
ちゃんと両手を合わせて食べる前に言うところは、まともなんだよなあ。
「いただきます」
私も手を合わせて積み重なったパンケーキをナイフで切っていく。
「うんうん、美味しい」
頬っぺたが落ちそうなくらい顔をとろけさせている夏希さんは、正直言って可愛い。
言ってあげないけど。
「そうですね、美味しいです」
「季里ちゃんと口にあったようでなにより」
知ってるくせに。
私が甘い物が大好きだって。
だからこの店に連れて来たんでしょ。
「この間女の子と食べた……あっ、この店じゃないよ? 別のとこでパンケーキ食べたときはさ、『甘すぎます』って言われちゃったんだよねえ」
私は甘い物好きだからさ、結局その子とは1回きりで終わちゃった。
「そうですか」
好き、っていう割には毎度他の女の話をするんだよなあ、この人。
知りたくもない性事情も、どれだけの女をたぶらかしているのかも、夏希さんはなんでも話してくる。
こっちがどんな気持ちで聞いているのか考えもせずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます