第1話 デート?2/5

「そういうことは好きな人に言った方がいいですよ」


「えー私はいつだって本気だよ? 本気で季里ちゃんのことが好きなんだけどなあ」


 嘘つけ。

 あんたが他の女子大生とヨロシクやってることは知ってるんだよ。


 という言葉は飲み込む。

 余計なことを言ったら、「え、嫉妬してくれたの!?」って誤解されかねない。


 彼女を調子づかせることは言いたくない。

 弱みは握ったままでいたい。


 ん、弱みなのか?

 この人にとっては日常なんだから、大したことじゃないんじゃないか?


「はい到着っ」


 勝手に悩んでいた私は、立ち止まった彼女に思いっきり引き留められた。

 もう少し優しく扱えよ。


「……結構人が並んでますね」


 心の中で文句をたれながら店を見てギョッとする。


「できたばっかりだからねー」


 夏にしては日差しが優しい今日、とはいえ、夏だぞ。少なくとも10人以上が店の前に並んでいた。


「あっ、私たちは予約してるからすんなり中に入れるよ」


「そうですか。ありがとうございます」


 正直、列に並ぶことを考えてため息をつきそうだったので、素直にお礼を言う。


「おー季里ちゃんが素直だ。珍しい」


「わざわざ顔を覗き込みながら言わなくてもいいじゃないですか」


 身長が155cmしかない私にとって、160cm以上ある貴女にかがまれるのはですね、割と屈辱的なんですよ。


 眉間に皺を寄せながら言えば、

「おや、いつも通りの季里ちゃんだ。珍しすぎて、体調悪いんじゃないかって心配したよ」

 無駄に明るい笑顔で言わないで。


「私だってたまには素直になります。ほら、行きますよ」


 なんだかんだ不平不満を口にしながらも、貴女のことがそこまで嫌いじゃない。

 むしろ会うたびに目をそらしたくなる感情が育っていく。

 この人のことを好きにならないと心に誓ったあの日の自分を忘れそうになる。


「待ってよお。置いてかないで」


 そういえば、初めて会った日も言われたんだった。


 同じ言葉を。


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