第1話 デート?1/5

「お待たせ!」


 翌日。夏希なつきさんは約束の時間に5分遅れてやってきた。

 いつも通り。


「はい」


 駅前のベンチに腰掛けていた私は、太陽を背に立つ彼女を目を細めて見つめる。


 柄のないノースリーブのワンピースを着た彼女は、

「ごめんねえ、今日も遅れちゃって」

 申し訳なさそうに眉をハの字にして、顔の前で両手を合わせた。


「そうですね」


 謝るくらいなら遅刻しなければいいのに。


 全く。この人は毎回毎回5分遅れてくる。

 絶対に5分。

 変な人だ。


 まぁ、女子大生をお金で買っているのになにもしてこない時点で、おかしな人なのは確定なんだけど。


「じゃあ行こっか」

 手を差し伸べてきた彼女の手をとって、立ち上がる。

「はい」

 夏なのに相変わらず手が冷たいなあ。

 なんてどうでもいいことを考えながら彼女と歩く。


 私と会ってこの人がすることと言えば、メインはカフェ巡り。

 身体接触は手を繋ぐか、腕を組んでくるか。


 それだけ。


「今日はねえ、ホイップクリームが滅茶苦茶に乗ったパンケーキを食べに行きます!」


「そうですか」


 鼻歌が聞こえてきそうなくらい軽い足取りの夏希さんと、真顔の私。


 周りの人からはどう見えているのだろう。

 姉妹か恋人に見られているんだろうか。


 残念ながらどちらも違う。


 私たちはお金で繋がった関係。


 それ以下でもそれ以上でもない。


「最近駅の近くにできたお店なんだけど、知ってる?」


「知らないです」


 どんどん温もりを帯びてくる彼女の手の温度とは真逆。

 

 努めて冷たく返したつもりだったんだけど、

「そっかそっか。良かった! 季里きりちゃんが他の誰かと行ってたらどうしようかと思ったよー」


「そうですか」


 なにが「良かった」だ。「他の人と行っていたら」だ。

 別に私のこと、なんとも思っていないくせに。


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