先生、これは売春ですか?

佐久間清美

プロローグ 歪な関係?

「はい、今回の分」


「ありがとうございます」


 封筒に入っていない、現ナマの5万円を受け取り、彼女が買ってくれた黄色い財布に入れる。


「やっぱり季里きりちゃんには黄色いが似合うねえ」


「そうですか」


 私自身は全く思わないけど、この人は事あるごとに黄色い贈り物を押しつけてくる。


 いや、記念日でもなんでもない日でも渡してくる。


 2回に1回ぐらいのペースで。


 お金をもらうだけで十分なのにね。

 一度受け取りを拒否しようとしたら無理矢理鞄に突っ込まれたので、もう受け入れてる。


 この人がやりたいようにやらせておけばいい。


 いらなくなったら売ればいいし。


「てか、相変わらず敬語だねえ。タメ口でいいのに」


「そう言われても」


 年上は敬うっていうのが我が家の教育方針なので。


「まぁいいや。それが季里ちゃんのいいところでもあるし」


「そうですか」


 貴女の贈り物を受け入れているんだから、こっちの口調ぐらい受け入れてほしい。


「んじゃあ、次はいつ会う? 明日暇?」


「明日、ですか」


 カレンダーを見るまでもなく予定はない。


「どうしたんですか。二日続けてなんて」


 空いてますよ。空いてますけどね、ちょっと悩むそぶりを見せた方がいいでしょ。

 若者の貴重な時間をお金で買っているんだから。


「理由なんてないよ。ただ明日も会いたいなーって」


「そうですか」


 基本的に「そうですか」としか相づちを打たない不愛想な女子大生に会いたいだなんて、物好きだなあ。


「あ、お金のこと気にしてる? 大丈夫、ちゃんと払うから」


「そこは気にしてません」


「ふむ。信頼されてるなあ私」


 この関係が始まってからお金が払われなかったことなんて一度もない。

 お金を出し渋る様子もない。


 経験上知っているだけのそれを、信頼と呼んでいいのだろうか。


「んじゃあ明日もOK?」


「はい」


 断る理由を持たない私は、yesと返事をする。


 別にこの人に会いたいわけじゃないよ、多分。

 お金がもらえるから。

 なにもしなくても。


 カラダの関係を要求されたことは一度もない。

 この人は、ただ私と会ってお茶を飲むためだけにお金を支払っている。


「待ち合わせ場所は今日と同じで……時間は後で連絡するね」


 カフェの窓から差し込む燦燦さんさんと降り注ぐ光に照らされた女性――夏希なつきさんは、光に負けないぐらい明るい笑顔でそう言った。

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