第7話 囚われの姫
冷たい石の牢に私は閉じ込められた。
その鉄格子はところどころ錆びてはいるが、決して素手では開けられないだろう。
広さは畳六枚ほどだ。
天井近くに空気をとりいれるための小さな窓がある。ご丁寧にそこにも鉄格子がはめられている。
薄暗い、冷えきった牢で私は一人でいる。
食事は一日一回。それは残飯のようなものだった。固くて、まずいが生きるためには食べなくてはいけない。摩耶の手料理がなつかしい。
どうして私はこんな屈辱を受けなければいけないのか。
大君に選ばれたからには木蓮に恥ずかしくないように政務にとりくんだのに、それが原因で恨まれ、このような惨めな環境にいる。
希望があるとすれば、私が鉄の鎖にいましめられたときに白也が天高く飛び立ったことだ。
梟の白也が主である虎将のもとに戻り、私の窮地をしらせることができればあるいわ……。
それは蜘蛛の糸よりも細いわずかな希望である。
はたして白也が虎将のところにもどったとして、今の私を助けに来てくれるだろうか。
魔術によって私に入れ替わった咲希が桜都にいるのだろう。
別人になってしまった私を虎将が助けに来てくれるだろうか。それにこの幻影城に閉じ込められていることを知る術もない。
考えれば考えるほど絶望に近づく。
こんなことなら大君になどならなければ良かった。私は木蓮とともに行商を営えればそれでよかったのに。
この地下牢に閉じ込められて、幾日が過ぎただろうか。朝から夜になったことを知る術は天井近くの小さな窓から入る光だけだ。
おそらくだが、一月ほど過ぎただろう。
この監禁生活にわずかな変化が訪れた。
牢の見張りが変わったのだ。
その男は
「藤様の土地でこんな俺でも仕事を与えられるのはありがたいことです」
と与治郎は言った。
藤幻夜という男は強く美しいことをなによりも尊いとする考えだ。与治郎のような男は藤幻夜にとって無価値であったのだろう。
牢屋番になれただけでもありがたいと与治郎は言った。
与次郎はもともとこのような体ではなかったという。
元は騎兵団の兵士だったが、侲帝国との国境での小競り合いのような戦闘で傷をおったという。
国を守るために戦ったものでも傷を負えば、不必要とばかりに捨てるのだ。やはり私はその考え方には賛同しかねる。
こんなことを続ければ、いつか国のために戦うものはいなくなるだろう。
「どんなことをすれば、あんたみたいな綺麗なひとがこんな目にあいなさるのかね」
与治郎は言い、桶にはいった水と古い手ぬぐいを渡してくれた。
「そいつで体をふくといい」
私に背中をむけて、与治郎は言った。
私がその桶の水で体を拭いている間、与治郎は決してこちらを見ることはなかった。
牢屋番が与治郎にかわってから、食事もましなものになった。残飯から稗や粟が混じって入るが、米がでるようになった。具は菜っ葉がはいった程度だが味噌汁もついた。何日かの一日のわりあいだが、塩漬けの魚もでた。
人間らしい食事に私は思わず涙を流した。
「泣くほどのことをしてやせんよ」
私が感謝の言葉をのべるとはにかみながら、与治郎は笑った。
与治郎のおかげでわずかにましな生活になったものの、地下牢でも生活は基本的にはつらいものだった。
地下牢は湿っぽく、石は冷たい。それは夏でもそれほどかわらない。与治郎はそんな私のために古くて薄いが布団を用意してくれた。これのおかげでどうにか冬も乗り越えられた。
さらに時は過ぎ、春となった。
与治郎が私のために桜の花のついた小枝を持ってきてくれた。
その花の美しさに心癒されていると誰かがこの地下牢に降りてきた。
その人物は豪華な絹の着物を着ていた。赤い髪にはべっこうのかんざしが何本もささっている。指には赤や緑の宝石の指輪がはめられている。その人物は私の顔をしていた。
彼女は私が決して着ることがない豪華で華麗な着物を着ている。
「あら、まだ生きていたのね。思ったよりしぶといのね」
あははっと笑いながら、咲希は言う。
与治郎は額を床につけて平伏している。こんな女にそんな態度をとる必要なんてないのに。
「なら生きていたのを悔いたくなるところに送ってあげるわ。おまえは明日にはここを出て、南の貿易港
高笑いしながら、私の顔をした咲希は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます