第24話

 体育祭は3日目も順調に進行し、ついに最後の試合となった。


 前日にメインイベントが終わったとはいえ、この日は西地区と東地区という括りではなく夫婦対決であったり試合をしながら出場選手が協力して料理を作り上げたりといった競技というよりは町内会の運動会に近い雰囲気の和やかな催し物といった趣が強い試合で多いに盛り上がっていた。


 正確には最終試合は終わり、これから始まるのはエキシビジョンマッチという扱いだ。


 というのも、最後の締めは地区を区別せずに祭りを通して見事なプレーを見せたマミの町全域での選抜選手とジャッドナーの5人との対戦であるからだ。

 経験値の差は人数の差でハンデとしている。


 ツン姉も含めて5人しかいないがGKはテッペキであるし、プロとして活躍していた時よりも身体能力の向上しているノブもいる。ツン姉もマネージャー業務がメインだったとはいえプレーをしていなかったわけではない。むしろ、知識が豊富な上に冒険者として活躍できる身体能力も転移時に獲得したことで王都で活躍するプロ選手と遜色のない動きを見せるほどだ。


 第一、彼らは曲がりなりにもBランクの冒険者。魂のレベルは常人よりも上であるので、女性だからという物差しは当てにならない。


 普段のユルイ雰囲気に騙されがちだが、単独でCランク冒険者のパーティと同等以上の仕事ができる者たちなのだ。



 町の住人の多くも、愉快な大道芸人みたいな認識だったジャッドナーの5人を相手に試合を始めてようやく彼らが本物のBランク冒険者だったのだと認めたほどだ。


 マミの町選抜チームのメンバーはほとんどが前日のメインイベントで出場した選手で占められた。唯一他のカテゴリーから選出されたのが初日に行われた少年の部で出場した狼人族の子供で、23人の振り分けも東地区選抜チームから14人、西地区選抜チームから9人と勝利チームから多めの選出になっている。


 その中にシュシュケーの名前がないことにジャッドナーとしては不思議に感じたくらいで、他は納得の人選と感じたものだ。


「中盤の汗っかきのスゴさって、素人にはわかりにくいもんな」

 今回の選抜メンバーの選考にはノータッチだったので、試合前の初顔合わせでジャージも苦笑いを浮かべながらも納得はしていた。


 とはいえ、素人集団なりにも身体能力の高いメンバーをそろえたことに違いはなく、試合は白熱した内容になった。


 前日のスピード全振りの大味な内容は奥の手として残しているのかもしれないが、メンバー選考を見る限りは守備にも配慮が見られる。特にゴール前はドワーフと牛人族のマッチョコンビがどっしりと構え、ゴールキーパーも前日に良い動きを見せた犬人族の男性が強気の指示を飛ばしている。


 システム的には4-2-3-1を採用し、トップ下の位置にスタミナはないが随一のパスセンスを見せたエルフのランスラッドが陣取っている。前日の反省を活かし、彼はほとんど動かずに中継に専念する作戦のようだ。


 今回は人数的に差があるため、ひとりふたりサボっても他がカバーできる点を有効活用していることを素直に感心する。とはいえ、味方のパス精度が低いせいでランスラッドも走り回る結果になってしまっているが、そこは愛嬌の範囲だろう。


 しかし、それでも身体能力と経験値の差が徐々に明らかになっていく。


 人数ではジャッドナーの方が不利なのだが、マークの外し方であったりボールの追い込み方だったりのセオリーを理解しているために少人数であっても普通にボールをつなげることができるし、相手からボールを奪うことができている。


 本業の冒険者稼業そっちのけでボールを蹴っているのは伊達ではなく、ひとつひとつの動きに無駄がなく、ミスも少ないのであれよあれよとゴール前にボールが運ばれシュートを放たれる。


 ただ、試合内容は一方的に近い状況になりながらも大量得点になっていないのは、途中からゴール前の守備にボランチの位置にいた兎人族の青年が下がってきたことが大きい。


 スピードに劣るドワーフと牛人族のセンターバックコンビを彼の俊敏さで上手いことカバーできるようになったからだ。更に、オラオラ系ゴールキーパーの犬人族の男性も反応の良さと守備範囲の広さでキャッチはなかなか出来ないながらもことごとくシュートを跳ね返すことに成功していた。


 結果として前半が終わった段階では2-0でジャッドナー優勢という、まずまずのスコアで折り返すことになるのだった。

 


「いやー。昨日今日始めたばかりとは思えないっすね」

 選抜メンバーから外れたことでジャッドナーのお世話係に戻ったシュシュケーから渡された水を飲みながらノブも感心したように笑みを浮かべる。


 ゴールキーパーをテッペキが務め、他の4人でひし形を作るように陣形をとっている。ノブは、その中で一番下の位置、センターバックというよりはアンカーの方が近い役割を担っている。


 本来はボランチを得意とするプレースタイルなのだが、彼が前線まで顔を出すようになるとそれこそ一方的な展開になりかねないので、ある種のハンデとして守備に重きを置かせている。


 ただ、実際問題として他に適任がいないというのも事実で、相手をナメているのかというと、警戒しているからこその配置でもあった。


 基本的にセンターフォワードをツン姉が務め、他のふたりが右に左に移動して3人で三角形を作って攻めていく。


 ノブは自由に動く3人に合わせてバランスをとって守備をしつつ、攻めあぐねた時にボールを受けられるポジションを常にキープしていた。


「後半はランスラッド君のスタミナも切れるだろうから、ガラッと戦い方も変えてくるだろうし、面白くなりそうだ」


 5人とも並みの身体能力ではなくなっているとはいえ瞬間的なスピードなどではガルルー族には及ばない。フィジカルの強さもドワーフや牛人族が相手では吹き飛ばされてしまう。


 技術で上回っているからこそ戦えているが、この先の展開が読めないことには不安よりもワクワク感の方が勝っていた。


 何しろ、これは公式戦ではなく祭りの一環なのだ。

 楽しまなくては損なのである。

 


 ――と、そんな穏やかなハーフタイムを過ごしていたのだが、急にドンドンッドドン! っとリズミカルなドラムの音が鳴り響いたかと思ったら、拡声器越しの騒がしい声が聞こえてきたではないか。

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