第14話
「オッケー。予想通り動いてないみたいだ」
地下4階、最下層の銭湯エリアまで逃げ込んだ後、警戒しながら他のフロアも見て回ったところで一息つく。
悪魔とのファーストコントタクトから40分といったところだ。
シュシュケーの調査の通り、8階層に及ぶ建造物。外から見ることはできないので、実質的に全階層地下であるのだが、この建物を覆うように丘ができたという方が正確かもしれない。
最下層に銭湯のようなスパ施設があり、そのひとつ上の地下3階は他よりも劣化が激しくハッキリとはしないがサウナであるようだった。更にその上に飲食スペースと思しきフロアが2階層あり、残りの1階から4階までカラオケフロアであった。
カラオケフロアが多いように思うが、最上階は半壊しているもののライブハウスのようなスペースになっているようだ。
飲食スペース以外はシュシュケーに馴染みのない文化であったことで的外れな憶測となっていたが、ジャッドナーの4人からしたら紛うことなく娯楽施設であるという結論に至っていた。
悪魔に警戒しながらでなかったなら十数分で終わる作業なのだろうが、それでも事前にシュシュケーが探索を終えてくれていたおかげである。
悪魔を警戒しなければならないのは当然だが、懸念していたのは下僕として悪霊が徘徊していないかという点であった。
一般的に悪魔と悪霊はセットで語られる。
悪霊の出る所に悪魔ありと言われるほどで、逆もまた然りなのだ。
しかし、今回のターゲットである悪魔は人類にとっては難敵とはいえ高位とまでは言えないランクであるからか単独であるらしい。また、言われるほど悪霊と悪魔がセットで目撃される事例も多くはないのだ。この辺は子供に注意を促すために大げさに喧伝されている部分もあるのだろう。
「やっぱり、雨を降らせ続けるためにココの安定した霊気を利用してるんだと思う。いくら悪魔とはいっても、何か月も雨を降らせ続けるには能力が不足してるもん。その点だけは朗報。遺跡の機能を改造して悪だくみしてるって感じではなさそう」
積極的に追いかけてこないのを良いことに、双眼鏡で確認できるギリギリの位置まで接近してからツン姉は再度〈スカウティング〉を発動させる。
建造物内であるため直線の距離が安全圏まで確保できていたのは幸いだった。
天使も悪魔も地上では擬態していることが多い。
天使の場合は干渉せずに見守ることに重きを置いているためだが、悪魔の場合は魂を保護しやすいという側面があるようだ。加えて、単純に肉体を持って小型化した方が地上では動きやすいということもあるようだ。
ファーストコンタクトの段階ではじっくり姿を確認することができなかったが、今回のターゲットである悪魔は最初の印象の通りカマキリとゴリラを掛け合わしたような異形のキメラといった姿をしている。
サイズ的には一般的な馬よりも一回り小さいくらいだろうか。
ゴリラが両手を地面についたような四足獣の下半身にカマキリにしては滑っとした肌感の上半身。ただ、上半身に生えている腕は鎌状というわけではなく、そもそも決まった形があるのかも怪しい。また、頭部は鬼灯のような形状で口腔内からウネウネとした細長い舌が伸びている。どこに目が付いているのかはハッキリしない。
「ってことは
雨を降らすというのは当然のことながら簡単なことではない。
一時的に天気を変えるだけでも並みの魔法使いでは不可能であるというのに、それを数か月も維持しているのだ。
雨粒サイズの水を魔法で作り出すことが最初の難関と言われるレベルで、それを継続的に広域に作り出さなければならない。正確には上空に雨雲を作り出し続けるという魔法であるのだが、雨雲の材料となる霊気を集めることが困難なのである。
いかに悪魔が魔法の扱いに長けているとはいえ中級以上の悪魔でなければ無理であろう。特に海から離れたエリアであるので難易度が段違いで変わっているのも重要な要素だ。女神の遺跡にかんする情報が事前になかったこともあり、その辺の事情も加味されて今回のクエストがSランクに該当すると判断されていた。
ただ、ツン姉の〈スカウティング〉によって今回の悪魔がそこまでの大物ではないということが判明した。
それでも
「当初の想定だとプレミアまではいかないにしてもブンデスとかリーグアンって印象だったけど、自力で魔法を維持できないとなると、どの辺だ? スコットランドリーグ辺り?」
「海外サッカーは代表戦くらいしか観ないから何とも言えんが、良いところじゃないか? ただ、あそこはトップチームがエグイせいでリーグ全体のレベルはよくわからんってのが正直なところでもあるが」
「まあ、でも。いくら警戒していたランクより下とは言っても、ヨーロッパの中堅より下ってことはないんじゃないっすか? CLクラスからELクラスになった程度でボク達からしたら超格上すぎて差なんか認識できないレベルってことに変わりはないっしょ」
想定していたのはチャンピオンズリーグに出場するようなレベルであったので、それに比べるとヨーロッパリーグに出場するようなレベルと彼らにとってはささやかな差が生じた程度である。
男3人が認識のズレを修正する中、ツン姉はひとつの懸念点を指摘する。
「そうね。問題はこの先加速度的に成長していく可能性があるから、対処するなら早い方が良いってこと」
「そっか。最初はただの長雨って認識だったけど、今は悪魔の仕業って理解してるんだもんな」
ジャージの返答に、ノブは首を傾げている。
それに対してテッペキが解説を入れる。
「悪魔ってヤツラは負の感情を食って成長するようなもんだ。ただの長雨と悪魔に襲われてるのとじゃ気の持ちようが違うだろ?」
「あー。早くしないと中級以上の悪魔に育っちゃうかもってことっすね」
「「「そういうこと」」」
長雨に対する負の感情でもそれなりに力をつけていたのであろうが、悪魔がいると認識されてからの方が不安は大きくなっている。おそらく、悪魔もそれを期待して姿を見せ目撃者を逃がしたという部分もあるだろう。
長雨という手段は、地味だが広範囲に及ぶこともあり効果的だ。
このまま手をこまねいていると本当にAランクパーティやSランク冒険者を呼ばなくては対処できなくなってしまうと彼らは考えていた。
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