第13話

「アンタらがもう少しサッカーと同じくらい魔力操作の練習をしてくれると選択肢も増えるんだけどねえ」


 悪魔の肉体は霊気を練り上げた仮初の姿であるため、撃退するには魂そのものにダメージを与えなければならない。そのためには魔力のこもった攻撃が必要になるのだが、ツン姉以外のジャッドナーのメンバーはそれを苦手としている。


 元々リトガの生まれではないため、どうやって呼吸しているのか? というレベルの感覚を後天的に習得するのは非常に難しい。しかも、呼吸と違って出来なくとも生活に困ることもはほとんどないのだ。


 魔法を使うのには魔力が必要になる。


 魔力は持って生まれた才能の部分も大きいが、日々の修練の部分も大きいとされる。それもあって、長命種の種族の方が魔法の扱いに長けている側面もあった。


 ただ、単純に魔力量が多ければ魔法の強度も高くなるかというとそんなに単純な話ではないらしく、どう魔力を扱うかも大きく影響しているため短命種の種族の中からもエルフに劣らない魔法使いが多く誕生している。もちろん、エルフであれば誰もが魔力操作の修練を怠らないというわけではないことも関係している。


 その辺は、種族に関係なく熱心な者は熱心だし、サボる者はサボるというだけの話だ。最低限の魔力操作が身につけば自分の興味のある分野へと意識は向かうものである。


 では、魔力とはどういったものか。


 ジャッドナーのメンバーはそこからして感覚をつかむのに苦労していた。


 ツン姉曰く「肉体をロボットだとしたら魂がコックピットに乗ってるパイロットね。魔力って言うのはコックピットから各パーツにつながってる電気系統みたいな感じよ」と、わかるようなわからんようなものらしい。


 漫画で表現される「気」とも違うようで、鍛えれば量が増えるというものではないらしい。


 その辺はワホマに教わったことなのだが、日常的な鍛錬では魔力量が増えるというわけではなく処理速度が上がるという方が正確なようだ。同じ物を持ち上げるのに2本指で摘まむか5本指でつかむかという差が生じるのだそうだ。


 残念ながら、ツン姉は最初から高水準で魔法を扱えたためにその辺の感覚はわからないらしく、指導者としては適していない。


 魔力量の増加を目的とした鍛錬は才能に左右される部分も大きいが、魔力操作の円滑さを目的とした鍛錬はやればやるほど習熟度が増すとされるのだが、そもそもの感覚がわからないことからジャッドナーの面々はサボりがちであるのだ。

 と、いうよりも。



「「「だって、ボールがあったら蹴りたくなっちゃうんだもん」」」



 クランハウスにクラブハウスも兼ねさせている関係ですぐにボールを蹴れる環境になっている。そして、アシュトルグランは王都らしく暮らしやすい気候が年中続く。


 そうなると気づけば誰かしらグラウンドに出てボールを蹴り始めるので、誰が声をかけるでもなく人が集まってミニゲームが開始されてしまうのだ。


 そこにセッペの選手や練習生といった面々まで加わってくるので日が暮れるまで終わらなくなってしまう。


「宿題忘れた小学生の下手な言い訳より酷い理由だな、オイ」


 万事がこんな調子であるので、ツン姉も本気で怒っているというわけでもなかった。さらに言えば、結局のところ彼女もついついミニゲームの審判やタイムキーパーといった役割を率先して手伝ってしまっているので強く非難できないのである。


「でもさー。比較的まじめに鍛錬積んでるガシト君でもコッチの世界の5歳児よりはマシってレベルなんだぜ? 転移してきた時が赤ちゃんレベルな上にオレらみたいに年食ってから新しいことにチャレンジするのは難易度たけぇよ」


 ガシトはハーレーの次に若いメンバーで、魔力操作の習熟度は年を経ても上げていけるが若い頃から鍛錬を続けていることが前提にある。気持ちも体も頭も若いつもりであっても、衰えは拒絶できない。


 女神によって救済されている肉体とはいえ、オリジナルの肉体が若返っているわけではないのだ。いや、正確に言えば転移する際に魂の情報に従ってこの世界の法則に適合するように肉体が再構築された時、性能は向上している。


 ちょっとしたキッカケで飛躍的に向上することもあるとはいえ、今はとっかかりすらつかめていないのが現状なのである。


「そうそう。ないものを今ねだったところで時間の無駄だからな。移籍期間でもないのに新戦力の獲得をフロントに進言したところでどうにもならないのと一緒だぜ?」


 財政状況が良くも悪くもないヴォルッケモンFCでは常にどこかしらのポジションが人材不足であった。時にはケガの影響などもあり本職のサイドバックがひとりしかいない状況でシーズンに入り、ダマしダマしボランチやウィングの選手をコンバートしながら1年乗り切ったこともあったほどだ。


「それは……そうなんだけど。やっぱりチートでも良いから現状を打破できる簡単な方法が欲しくなるものだよ」


「「「ちげーねえ」」」


 サッカー以外の共通点であるMMORPGにおいてチート行為はご法度であり、彼らも忌み嫌ってきた。


 しかし、事は自分の命にかかわる案件である。


 今すぐにアルティアーナに話を付けて加護のひとつやふたつ増やしてもらいたくなるのも無理はない。


 そうは言っても女神に余裕がないことは彼らも実際に謁見しているのでわかっている。ついでに言えば、女神が封印を試みているデスムドーラも同じタイミングで確認することもできていた。



 アレはヤバい。

 


 何がどうとは上手く説明できないのだが、本能的に全員の意見が一致していた。


 アレはヤバい。


 そして、それを抑え込んでいるアルティアーナもまたやはり創造神として別格なのだということも肌で感じることができたのであった。


 とはいえ、そんなデスムドーラを完全に封じるための手助けをしなければヴォルッケモンFCが無事に昇格できるのかも、J1の舞台で名立たるクラブと戦う姿も見届けることもできない。

 とどのつまり、自分達で何とかする以外にないわけだ。


 実際に悪魔と対峙することは滅多にないとはいえ、何とか乗り切ってきた実績もあるにはある。そのことを踏まえ、4人でプランを練っていくのであった。

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