第11話

 ツン姉の発したカラオケボックスというキーワードに男どもは視線を合わせると「それだ!」と、一様に声を出す始末であったのだが、これに釈然としないのが正解を導き出した本人であった。


「いやいやいやいや。待ってよ。女神の遺跡って短く見積もっても数千年前のものでしょ? 何でニホン式のカラオケボックスがあるのよ!?」

 彼女の指摘も無理はない。


 じゃっかん古臭い雰囲気はあるものの、通い慣れたカラオケボックスの雰囲気そのままなのだ。カラオケボックスは1970年代に誕生したとされることを鑑みると、この場所にあることがあり得ない代物なのである。


「まあ、その辺は時間の流れが違うんじゃね? この世界の1年がアッチの1年と同じとは限らないだろ? もしかしたらアッチの1年がコッチの1万年かもしれないんだし」


「もしくは……、こっちがオリジナルでニホンが影響を受けたとか? 女神様に会った時もそんな話してたっすよね?」

 ジャージの指摘にノブも何かを思い出したように視線を上に向けながら呟くと、テッペキもそれに反応する。


「何だっけか? 確か、同じ系譜の神から生み出された世界とか何とかってヤツか?」

 女神アルティアーナも悪神デスムドーラも無から突如として誕生した存在ではない……らしい。神様を生み出した神様もいるようで、そこにはいくつかの系譜が存在するようなのだ。


 その関係でジャッドナーの面々がリトガで普通に生活できている面もある。


 知性ある生命体のモデルが神であるためで、チキュウの人間とリトガの人間に見た目の違いはない。全くないわけではないのだが、個人差による範囲であるため誰も気にしないのだ。


 ただ、魂の情報量が違うのか生きてきた環境が違うからか内部データのようなものは別物で、リトガの住人よりも優遇されている肉体ではあるのだが、それも飛び抜けて異質かというとそうでもない。


 そもそも、この世界では肉体を鍛えることで魂が鍛えられ、それによって肉体の性能も向上するというサイクルが出来上がっている。


 リトガの諺には「健全な肉体に健全な魂が宿り、健全な魂によって肉体は更なる飛躍を得る」というものが言い回しは地域によって異なるが各地で語られているほどの常識となっているのだ。


 要は肉体を鍛えることで魂がレベルアップし、それによって肉体強度の上限が解放され更に肉体を鍛えることができるようになり魂も次のレベルを目指せるようになるというサイクルなのだ。


 これもあって種族間の身体的特徴による有利不利を覆すことも可能になる。


「あれか……。同じ系譜の神が創り出した世界は無数にあれど、互いに影響し合ってるって話」

 彼らがヴォルッケモンFCの試合中に突如として異世界転移してしまった直後のことだったため、冷静に女神と話が出来た者などいるはずもない。


 不慮の事故に遭遇してしまった全員が試合がどうなっているのか気が気でない状態だったのだ。


 何しろ、勝ち越しゴールが決まったとはいえ残り時間もまだまだ残っている状況だったのだ。配信で中継を見ていたら突然回線が切断されて情報が遮断されてしまったようなものなのである。


 引き分けでも他会場の結果次第で昇格が決まる状況だったこともあり、残りの試合展開が気にならないはずがなかった。


 そんなところで神々しく女神が登場してきても「そんなことより試合はどうなってる!?」と詰め寄るのも無理はないというものだ。


 そこで女神によっていくつかの応急処置的に加護が与えられ、世界が平和になりアルティアーナに余裕が生まれたら元の世界の元の時間に戻してもらえるという確約を得るに至ったわけである。


 そこまで話が進み、ようやく年長組から順に落ち着きが戻り限られた時間ながらも雑談のように話を聞くことができたのだが、そこで語られた中に世界線の話があったのだ。


「でも、アルティアーナ様の話だと、同じ系譜とはいえ特異点みたいな世界って言ってなかった? あちこちの系譜の神がちょっかいを出し合ったせいで収拾がつかないカオスな世界になってるみたいだって」

「それでも異世界転移が起こる程度には近い世界だとも言ってたじゃん。エルフやドワーフなんかもオレ達の知識と大きく違わないくらいだから、昔から影響し合ってたんじゃないか?」

 ジャージは腑に落ちない様子のツン姉の横でカラオケの操作を試みるも上手くいかないようだ。


「それよりも……っす」


 カラオケの起源がどちらの世界なのかは置いといて、ノブはボンヤリした表情でマイクを握りポンポンと叩きながら音を拾うか試したかと思ったら、すでに機能は失われると判断したのか先を急がせようと部屋を出ながら口を開く。


「「「?」」」

 ノブに釣られるように部屋を後にした3人はそろって小首を傾げる。


「世界中の学者先生だけじゃなくてシュシュケーみたいな民間人まで夢とロマンを求めて女神の遺跡を調べてるっていうのに、ただのレクリエーション施設でしたって……どうなの? 発表したら面白そうっすけど」

 他の小部屋も覗き込みながらふらふらとしたいつもの足取りで呑気に問いかけていた。



 ……が。



「待て待て待て待て……。余計な地雷原に足を突っ込むな」

「そうよ!? こんなことアルテレードの石頭神官達に知られてみなさいよ。ただでさえ隙あらばアタシらを投獄しようと目論んでるって話なのに不敬罪とか何とかで国際手配されかねないわよ!」

「でもよ……。シュシュケーには何て報告するんだ? 知らぬ存ぜぬで済ませるのか?」

 ジャージ、ツン姉、テッペキと表情を目まぐるしく変化させながら喧々諤々の議論が巻き起こるかに思えた。


 その刹那。




〔へぇ~。君たち、ココが何なのかわかるんだ?〕




 不意にザラリとした不快な声が耳に届く。

 それと同時だっただろうか。いや、声が聞こえるよりも早かっただろう。ジャージが反射的にホイッスルを吹いたかと思ったら、けたたましく響き渡った時には4人とも振り返ることもせず一目散に逃亡を試みていた。

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