第10話 心機一転! エロ話

 先生が一人暮らしであることは教えてもらったが、どこに住んでいるかは教えてもらえなかった。


教えることで、俺と先生が学校外で交流しやすくなり、学校関係者や保護者に観られる可能性が増えるのを危惧したのが理由らしい。


何かあったら、処分を受けるのは先生だ。慎重になる気持ちはわかるけど、考え過ぎのような気もするんだよな~。


とりあえず、先生の気が変わる可能性に賭けよう。そのためには焦らず、今まで通りにエロ話をすればいい。それだけで何とかなる…はずだ。



 そして午後8時。先生に電話をかける時間になったし、早速かけよう。

…2コールですぐ出てくれた。嬉しくてテンションが上がるぜ。


「こんばんは、坂口君」


「こんばんは、柏木さん」


学校では“先生”と呼ぶが、学校外では“友達”として接するように言われている。

なので名前で呼んでいるのだ。俺が勝手に呼んでいる訳じゃないからな。



 「今日は、どういう話を聴かせてくれるの?」


「そうですね…。柏木さんは、洗濯物を外に干しますか?」

これだって、れっきとしたエロ話だ。


「仕事がある日は室内干しだけど、休みの日は外に干すわね」

…普通に答えたな。俺の意図に気付いていない?


「それは…、下着も含みます?」


「…なるほど。君の言いたいことが分かったわ」

電話越しだが、クスッと笑う感じが伝わる。


「それで…、どうなんですか?」


「下着だろうと、他の洗濯物と扱いは同じよ」


「大丈夫なんですか? 男物の下着も干してカモフラージュしてるとか?」


“カモフラージュの有無が、下着泥棒のやる気を左右する”というのをどこかで聴いた気がする。まぁ、真偽は不明だがな。


「そんな面倒なことしないわよ。私はマンションに住んでるから人目に付かないの」


へぇ、先生はマンションなのか。この情報は初だな。しっかり記憶しよう。


「マンションでも、お隣さんに観られる可能性がありますよ?」

灯台下暗しだ。変態はすぐそばにいるかもしれない。


「隣なら、生活音で同居人がいるかわかるでしょ? ごまかす必要はないわ」


確かにそうだな。うっかりしていた…。


「でも、私を心配してくれたのよね。ありがとう」


「年上であろうと、女性の一人暮らしは危ないですから気になりますよ」


「教室の真ん中でエロ話をした君が、他人を気遣えるのね。驚いたわ」


「まったくひどいですよ、柏木さん。それとこれとは、話が違いますって」

子供扱いされても仕方ないけどさ…。


「ふふ、そうかもね」


やっぱり、あの件は相当尾を引いているな…。



 「そろそろお風呂に入りたいから、今日はここまでね」


「はい。お忙しい中、ありがとうございました!」


「気にしないで。…また明日」

そう言って、柏木先生は電話を切る。


うっかりなのかわざとかはわからないが、先生がマンションに住んでいることを自ら明かしたな。予想外の収穫でありがたいぜ。


この調子で何度も話していけば、もっとボロを出すかもしれない。

それを楽しみにしつつ、先生との会話を充実させることにしよう。

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