第9話 先生のことを知りたくて②

 昨日の夜の電話で、柏木先生が1人暮らしであることを知った。

次に知りたいことは…、だよな。


これはハードルが高いから、ぼかすか拒否るかもしれない。

それでも、距離を縮めるために絶対訊くんだ!



 そして午後8時。昨日と同じ時間に柏木先生に電話する俺。

…2コールで出たぞ。昨日は3コールだったし、待ち遠しく思ってたりする?


「坂口君、今日は何を話してくれるの?」

声のトーン的に、少しワクワクした様子が伝わる。


「今日も、昨日みたいに質問させてください」


「いいわよ」

警戒せずに答えたな。そこから話を膨らませるパターンと思えば当然かも?


「柏木さんは…、どこに住んでるんですか?」


「…え?」

やはり、反応がよろしくないな…。


「坂口君…。どういうつもりかしら?」


「大体で構いません。柏木さんとの共通点を知りたいだけです」


「それは…、答えられないわね」


ダメか。仕方ないのはわかっているけど…。


「そうですか…」

勝手に期待した俺が悪いのは百も承知だが、裏切られてショックだ…。


「今の時代、親子でない未成年と出歩くと、周りにどう思われるかわからないから」


「見知らぬ人なら良いじゃないですか!」

義理の姉弟と思われるかも?


「もしその中に、学校関係者や保護者の方がいたらどうするの? 高校生は行動範囲が広いし夜中も出歩くから、君だってクラスメートに観られるかもしれないわよ」


そこまでは考えてなかった。仮にそうなったら、処分を受けるのは先生だけだ。

厳重注意ぐらいで済めばいいが、場合によってはクビの可能性も?


「本来なら、この電話だって微妙なラインよ。私はギリギリイケると思ったから交換したけど、人によっては“アウト”と思うかもしれない…」


「この電話が微妙なライン? それはいくらなんでも考え過ぎですよ。もしそうなったら、俺がちゃんと言います。『その考えは間違ってる!』って」


学校外で、学校に全く関係ないことを話して何が悪いんだよ?


「気持ちは嬉しいけど、それだって私がと判断される可能性があるの。大人の世界は面倒なのよ」


先生にだって、生活がある。プライベートで俺に会ったことで、問題が起こるのを危惧するのは当然だろう。…ここは諦めるしかなさそうだ。


「わかりました。これ以上は訊きません」


「ありがとう、坂口君」

そう言う先生は、寂しそうに聞こえる。


「私が先生を辞めたら、教えてあげるけどね」


「…え? 本当ですか?」

今までのは、みたいなものじゃないのか…?


「本当よ。その時がいつ来るかわからないけど、楽しみにしててね」


「はい!」


先生が辞める時っていつなんだろう? 結婚する時とか?

“教師”の仕事に嫌気が差していたら、いつでも可能性がありそうだが…。



 「それじゃ、そろそろお風呂に入りたいから…」

柏木先生が、電話を終えたがっている。


「はい、そろそろ失礼しますね」


「また明日」

…電話が切れたようだ。


柏木先生が教師を辞めれば、自宅を教えてもらえる。しかしそうなると、高校内で会えなくなるな…。


今のままでは、先生と関係維持するのが精一杯だ。このまま維持し続ければ、先生の考えが変わって色々教えるようになるかもしれない。


…いちかばちかだ。その可能性に賭けるか。方向性が決まって頭がスッキリした俺は、寝る準備を始める。

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