駅前禁足地
十余一
駅前禁足地
「いやァ、君は本当に幸運だ!」
駅前で俺を迎えてくれた青年は、心底楽しそうに目を細めた。喜びに呼応するように白髪がさらりと流れる。
「嬉しいなァ、久しぶりの新入りだよ。ここに辿り着く前に力尽きちゃうヤツも多いからねェ」
「俺も結構ギリでした」
「そォなの!? おつかれェ~」
それから適当に雑談をしながら目的地へ向かうが、青年が話す“水戸黄門を追い返した武勇伝”は触りだけで終わった。
駅から
「さて、このたった十八メートル四方の中で過ごすことになるワケだけど、やっぱさァ、相性とかあるじゃん? まずは顔合わせしとこっか」
「ウッス」
森に入口らしきものは無い。周りをぐるりと囲う柵を青年が乗り越えて行ったので、俺も後を追った。深く生い茂った森の中はひんやりとして居心地が良い。
「
呼びかけの途中で青年が振り返り、「ああ、名前は適当だよ。僕らは曖昧なままでいるべきだからね。そのほうが何かと都合が良い」と言い、「僕のことは仙ちゃんって呼んでくれていいよォ。仙人の仙ちゃん的な」と付け足した。
そのまま少しばかり歩くと、深い森に似つかわしくない立派な
「機織りちゃんはねェ、静かだけどお茶目なとこもあるんだよ。昔は近隣の農家に機織りの道具を借りては、
「血糊を……」
「そしたらみんなビビって貸してくれなくなっちゃってさァ、今使ってるやつは機織りちゃんの自作なんだよ。DIYってヤツ? 凄いよねェ」
「器用っすね」
「あとはここら辺に……。お侍さーん、お侍さーん! あーららァ、溶けちゃってる」
薄暗い森の一角を、赤黒い土が覆っている。中途半端に溶け残った手足や首が不気味に転がっているが、仙人さんはさして気にする様子もなく、あっけらかんと言う。
「昨日、雨降ったじゃん? ここは守られた土地なんだけど、風雨からは守られてないんだよねェ。お侍さんたち、土人形だから溶けちゃうんだよ。まァ、そのうち戻るっしょ」
そんな話しの途中で大きな
「あっ、待ってまって! そのアブもここの住民だから! 良いアブだから! 浦島太郎の亀みたいに恩返しするタイプのアブだからァ!」
「そうなんすか。すみません」
虻は仙人さんの肩に停まると、なにやら会話をし始めた。生憎と俺には虻の言葉がわからないから、少しシュールに見えてしまう。
「ねェ、アブっち、狐っ子がどこにいるか知ってる? 遊びに行っちゃった? そっかァ……。殿は? 二日酔いで寝てる? えェー……。じゃあホンダさんは? 大分に里帰り中? そう……。えー、他のみんなも都合悪いっぽいの? 残念だァ……」
話し終えたらしい仙人さんが俺に向き合う。おそらく虻さんもこちらを見ている。たぶん。複眼だからよくわからないが。
「ごめんねェ、あんまり顔合わせ出来なくて。でもさ、歓迎するよ! ここでは何をするも自由だ。
初めは
「ようこそォ、
仙人さんはまた、心底嬉しそうに目を細めた。両手を広げ、俺を歓迎してくれる。
JR
駅前禁足地 十余一 @0hm1t0y01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。