第3章 気炎万丈
「やっぱりここだったか。捜したよ~」
ブッコローは重いトーハンのダンボール箱と共に東京ミッドタウン日比谷にある「一角」の一角に到着した。
「皆まだ待っていると思って伊勢佐木町に行ったら誰もいなくてさー」
「当たり前だ!」
時刻は夜九時をまわっている。ハヤシは一人で唐揚げをつまみに酒を飲んでいた。間仁田は厨房で皿洗い。社長、郁、ザキ、
「実は今日、越後屋書店にお呼ばれしちゃってさ~」
「は?」
「それよりひなのちゃん!とりあえずビール!」
妹の結婚式設定はどこへ行った、とハヤシに突っ込む隙さえ与えず、ブッコローはいつものマシンガントークで見てきたものを語り始めた。
「でさ、越後屋の本社ビルが凄くてさ~、会議室ひと部屋が伊勢佐木町の六階フロアぐらい広いんだよ~」
「あとエレベーターの扉も自動で開閉だし、空調も効いてたし、ラップ音もしなかったよ。さすが業界売上ナンバーワンの書店だよね」
「それでさ、越後屋もYouTube始めるらしいよ、知ってた?MCはぬいぐるみで名前はエチゴローだって」
「そのエチゴローの声をやってくれって頼まれちゃってさ~、びっくりだよ。ギャラは有隣堂の倍出すってさ!くぅ~お金持ちぃ~」
「お土産に何かが詰まった箱貰ってさ、大企業からの土産なんて札束期待するじゃん?開けたら『闇金ウシジマくん』だよ。そんなん全巻持ってるっつーの!」
「おい!待て待て待て!」
悪びれた様子もないブッコローにどこから突っ込んでいいか分からないハヤシは取り敢えずしゃべくりを停止させた。
「お前、それ引き抜きだろう!」
ハヤシは一番大事なことに切り込んだ。
「それで、返事はどうした?」
「断ったよ。ギャラは倍って言われても元が少ないんだからさ、変わらないよ」
「…」
「それに専属の馬券師も付けてくれるって言われたけど、競馬っていうのは自分で賭ける馬を選んで、自分の金で馬券買って勝負にヒリヒリするのがいいんだよ。分かってないよね~」
「話を断ったのに土産は貰ってきたのか!」
「だって持って行けって言うからさぁ~。中身が『ウシジマくん』だって分かってたら置いてきたよ」
(おのれ!越後屋!!)
あいつらは「ゆうせか」をライバル視してチャンネルを潰す気だ。
「売られた喧嘩は買ってやるぞ!売上高は知らんが書店発のYouTubeチャンネルでは有隣堂が最大手だ」
ハヤシは息巻いた。
「よし!秋に開催される『本屋さんのゆるキャラグランプリ』にエントリーするぞ!『ゆうせか』の人気を越後屋に見せつけて思い知らせてやる!」
「なにそれ?あ、ビールおかわり!」
ハヤシとブッコローの温度差はどこまでも埋まりそうになかった。
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