第56話 初めての……

「いつもと同じでいいんじゃないか?」


「いつもって?」


「そりゃ~、エッチだろ」


 うん。これしかない。

 俺達2人が、ここぞという時にすることはエッチ以外選択肢はない。


「やっぱ、瑞稀くんはそう言うと思ってたよ私は」


「何、不満か?」


 てっきり、天野の同じような考えを持ってると思っていたがそうではないらしい。


「不満ではないけどさ、もっと特別な何かを私はしたかったな」


「例えば?」


「そう言われても別に思いつきはしないけど……」


 顔をしかめる天野。

 特別なこと。随分と難しいことを言うな。考えれば考えるだけ難しいぞこの問題は。


「これはあくまで俺の考えなんだけど、日常を大切にするのもいいとは思うぞ?」


「へ?」


 胸を張りながら言う俺に、天野はポカンと首を傾げる。


「ほら、よくあるでしょ。普段何気なくしてる事に感謝するとか、そういうやつ」


「ふーん、瑞稀くんのくせに説得力がある」


 何気なく、てか俺と天野が会ったら必然的に行う事。それがエッチだ。

 最初はそれだけの目的同士だったし、感謝も何もないのだが、今こうやって天野と恋人になった。


 ただ快楽を求めあうだけではなく、もっと愛のある行為にしたい。


「ようするに、瑞稀くんは私とイチャイチャセックスがしたいってわけか」


 俺の頬をつつきながら天野は不快な笑みを浮かべる。


「付き合って最初のモノなんだ。大切にしたいし、ちゃんと天野を見たいって思ってる」


「ん……ちゃんと考えてくれてるじゃん」


 と、少し下がり頬をじんわりと染める。


「嫌だったら、別にいいんだぞ?」


 頭を撫でながら言う俺に、


「ううん……シたい」


 手を掴み、上目遣いで吐息を耳に掛ける天野。


「恋人になってからの初エッチ……シよ?」


「よろこんで」


「ちょ――急に何するの……⁉」


「こっちに移動した方がいいでしょ」


 軽々と天野を持ち上げると、ベッドへと移動し、そのまま押し倒す。

 少し暴れたからかバスローブが少しはだけ、白くハリのある胸がチラリと見える。


「なんか、最初を思い出すよな」


「この……状況が?」


「立場は逆だけどな」


「瑞稀くん、私に押し倒されてたもんね」


 クスりと口元を抑えながら笑う。


「お前ががっつくからだろ」


「今は……瑞稀くんの方ががっついてるけどね」


「こんな可愛いの見せられたら抑えられるわけないだろ」


 目の前にバスローブ姿の彼女。この状況で本能を抑えようとする方が無理がある。


「なら……我慢しなくていいよ//私に全部ちょうだい//」


 両手を広げ、目をハートにして俺に呼びかける天野。

 ワンマンライブは大成功、そして、体だけの関係だった国民的美少女アイドルの天野と恋人になった。


 この日、この夜の事は、一生忘れることはないだろう。


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