第55話 浮かれてる

「さて、ここで瑞稀くんに質問です!」


 唐突にピシっと人差し指を立てる天野。


「質問?」


「そう! 私たちの門出に関わる重大な質問です!」


「なんだそれ」


「まぁまぁ、内容を聞けば納得するからさぁ~」


 一体何を出題されるのか。

 想像付くのが、「私の事をどれだけ知っているか」みたいなクイズ。

 よく付き合いたてのカップルがイチャイチャしたいが為にやる意味がよく分からないやつ。


 でも天野はそんな事しなさそうだ。

 世の中のバカップルを、俺と同様に憎たらしく思っているし。

 主に仁と笑麻の事だが。


「んで? その内容ってなんなんだ?」


「そんなの簡単だよ~」


 スーっと深呼吸をしてためると、


「ズバリ! 私と恋人になって初めてしたいことはなに⁉ でした!」

 胸と声を張りながら言う天野。


「想像以上にくだらなかったわ」


 もう少し盛大な何かがくると思ったのだが、期待して損した。

 天野らしいと言ったら、天野らしいんだけどな。


「くだらない⁉ 結構大事なことだと思うんだけど?」


 鼻で笑う俺の肩を揺さぶり、マジな顔で凝視してくる。


「うーん、内容も多少あるけど、天野がそんな子供っぽいこと言うんだな~って」


「なに、バカにしてる?」


「ちょっとだけな」


「っ―――瑞稀くんってそうゆう所あるよね。性格がいまいちよくない」


 ムスッとした顔を浮かべると、プイっとそっぽを向く。


「天野、浮かれてるでしょ?」


「んなっ……!」


 俺の指摘に、あからさまに天野は頬を赤らめる。

 どうやら図星のようだ。


「浮かれるのはいいと思うんだけど~、恥ずかしいバカップルみたいな事を言い出すのはちょっとはずいんじゃないのかな~って」


 小バカにするように言う俺に、


「浮かれて悪い? ……人生で初めて彼氏ができたんだよ……ちょっとくらい、いいじゃない」


 と、見た事ないキョドり方を見せる天野。

 なに可愛いんですけど。


「大丈夫、俺も変な事言いそうなくらい浮かれてるから安心しろ」


 こんな表情を見せられてしまったら、俺も今に羽ばたきそうなくらい浮かれてしまう。

 最高すぎないか。


「それはそうと……瑞稀くんはないわけ? 私としたいこと」


 ジーっと細い目でこちらを見てくる。


「付き合って初めてしたいことね~」


 これが何をしても『付き合って初めて記念』という思い出で終わるわけか……

 どんなことを言っても許される気もする。

 でもまぁ、俺がしたいのは性犯罪的ななにかではなく、単純な事だ。


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