第53話 聞きたい?

「え、嘘……ホントにいいの……?」


 答えを聞いた天野は、唇を震わせながら俺の額をさする。


「いいに決まってるじゃんか。逆に俺が聞きたいくらいだよ」


「私は……瑞稀くんがいい……瑞稀くんじゃなきゃダメなの」


「俺も、天野じゃなきゃダメだ」


 ポロリと涙が滴る天野の頬を優しく拭う。

 これまで女っけがなかった俺に来た運命の出会い。放課後の教室で見た天野の姿を忘れられない。


「じゃぁ、瑞稀くんは私の彼氏ってことで……いいの?」


 俺の腰へと肩を回す天野に、


「うん。天野は俺の彼女ってことでいい?」


「もちろん!」


 と、天野は涙をこぼしながらも、笑顔で俺の胸に飛び込んでくる。


「人生で初めて恋愛できちゃったよ! しかも初恋の人に!」


「なに、俺が初恋だったのか?」


「だって、恋愛禁止だから男子を恋愛的に見てなかったし、そもそも私のタイプの人がいなかったから」


「イケメンと関わる機会なんて多いと思うんだけどな、アイドルなんて」


「イケメンだとしても私のタイプとかじゃないしさ、やっぱ運命ってあるんだね」


 涙をすすりながらはにかむ天野。

 これが俺の彼女なのか。


 国民的美少女アイドルで、何事にも全力を尽くす一人の女子。

 今すぐにでも誰かに自慢したいのだが、グッとこらえる。

 青木さんと約束したからな。絶対に関係は公にしないと。


「運命ってホントあるもんだよな。俺も天野と付き合うなんて夢にも思ってなかったもん」


 そもそも、体の関係になることすら見当がついてなかったんだからな。その先なんて到底考えられない展開であった。


「まぁ、最初はエッチするだけだったもんね」


「変な出会いだったよなホント」


「あ、この際だから言うけど、私が瑞稀くんを誘った理由聞きたい?」


 俺の隣に座り直し、コーラを一口飲むと、天野が小首を傾げる。


「聞きたいなそれは」


 気になる。


 普通、学校の仕事を手伝っただけでエッチなどに誘われない。

 ましてや国民的アイドルの天野だ。

 言われてみれば超気になる。


「ホントは言うつもりなかったんだけど、瑞稀くんの彼女になれたことだし話してあげるとしますか」


 スナック菓子をパクリと一つ食べると、天野はにこやかに話をする。


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