第52話 気づいてくれてもいいんじゃない……?

「そんな時にさ、瑞稀くんに出会ったの。アイドルとしての私じゃなくて、ただの同級生として見てくれる瑞稀くんに」


「……そっか」


「うん……そこからさ、瑞稀くんとそうゆう関係になって、仕事の話とか色々するうちにね、瑞稀くんはやっぱ特別なんだな~って改めて思ったの」


「天野をアイドルとして見ないからか?」


「それもあるけど、価値観が合ってたり、遠慮しなくてよかったり、他愛もない話を一生してても飽きない……友達より上の存在だって」


「お前、それって……」


 告白まがいな言葉に、俺はゴクリと息を呑む。

 この雰囲気といい、天野の口調といい、これは完全にただの会話ではないことくらい俺にだって理解できる。


「瑞稀くんはさ、今、私のことどう思ってる?」


 俺の頬を摩ると、天野は上目遣いでこちらを見てくる。


「どうって……」


 そんなの好きに決まってる。

 最初は、お互い都合がいい関係だったかもしれない。

 しかし、親しくなっていく内に都合がいいだけでは言い表せない関係性になった。

 その中で、恋愛感情が生まれないわけないのだ。


「そろそろ瑞稀くんも気づいてくれていいんじゃないのかな……?」


「んなこと言われても……」


 気付いていても、気づかないフリをしている。

 天野のような国民的アイドルと本当の俺のような凡人が恋愛関係に発展しても良いのだろうかと。


 青木さんも、もしそうなったならば応援してくれると言っている。

 さっきの言葉で確信したが、天野は俺の事が……好きだ。

 にわかに信じ難いが、一緒に過ごしていく内に俺への態度が変わっていることには気づいていた。


 笑顔が増えた事、ちょっとしたことで恥ずかしがるのが増えた事、感情を共有する頻度が増えた事。

 徐々に打ち解けていく中で、乙女の顔をする天野が見えたことで薄々気づいてはいた。


 凡人なんかでいいと言ってくれるなら、俺は天野と恋愛関係になりたい。

 体だけではとどまらない、お互いを信用出来る関係に。


「ねぇ、瑞稀くん―――」


 と、火照った体を俺の上へ乗せてくる。


「恋愛禁止とかどうでもいい。もしもの時はアイドルやめる覚悟も出来てるからさ……私と付き合わない?」


 刹那、天野の輝く瞳に俺は奪われる。

 天野はアイドルという自分の生きがいとも言えるものと引き換えに、俺との恋愛を選んでくれている。


 だとしたら、俺も駄々をこねている場合ではない。

 自分の価値なんて自分で決めてどうする。

 俺を選んでくれた人が、俺の価値を決めるものだろう。

 だから俺は……


「天野、俺も好きだ。付き合ってくれ」


 天野の肩を掴み、人生で一番真剣な顔で言うのだった。

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