第46話 誰かにその笑顔を届けたい

「ホント、疲れた体に風が気持ちいわ」


 顔になびく涼しい風が、疲労した体に染み渡る。


「瑞稀くん、別に疲れる事してなくない?」


 半身振り返ると、細目になる天野。


「待ってるだけでも疲れるだろ」


「えぇ~、一日中バタバタしてる私よりはマシだと思うんだけどなぁ~」


「そうかもしれないけど、精神的に疲れるんだぞ?」


「ゲームしてて退屈じゃないって言ってたの瑞稀くんだよね?」


「……流石に飽きもくるって」


 午前中はずっと椅子に座ってゲーム。午後は青木さんと少し話をして、天野と一試合終えて、それからまたゲーム。

 ライブ前に恵那さんと会って、ライブ本番で天野に見惚れていた。

 確かに天野よりは全然疲れてはいないだろうけど、体が重いのは確かだ。


「私も疲れたけど、それより楽しかったってのが大きいかな」


「それはライブが大成功したからか? それとも――」


「瑞稀くんが最前列で見てくれたかな」


「それでライブを楽しめた……と?」


「……うん」


 恥ずかしそうに縮こまって頷く天野。


「私さ、最近っていうか結構前から悩んでたの。何のためにアイドルを始めたか分からなくなったり、作った笑顔でファンは本当に嬉しいのかな~とか、もし本当の笑顔が作れたとしてもそれが届く人がいるのかな~って」


「そりゃー、何万人もファンが居れば一人くらい届く人はいると思うぞ」


「誰か一人にじゃなくて、私は誰かにその笑顔を届けたいの」


「特定の人に……ね」


「その誰か一人を見つけたんだよ。つい最近ね」


 天野はグッと俺に近づくと、顔を覗き込んで微笑む。


「それが、俺ってわけか?」


「うん! 私にアイドルとしての存在価値を見出してくれたのは気付いてないかもだけど、瑞稀くんなんだよ?」


 アイドルとしての天野を支えたつもりはない。どちらかというと、アイドルではない方の天野に寄り添っていた気がする。

 でも、そこまで興味がなかったアイドル活動の事を、天野を知っていく内に段々と知りたくなっていった。


 絶対にファンや学校の人が見ない天野ではなく、皆が知っている天野を。


「天野みたいな国民的アイドルの存在価値を見出すのが、本当に俺でいいのか?」


 少し不安になる。

 俺みたいな凡人が天野がアイドルをする理由になっていいのか。

 嬉しい、嬉しいけど、深く考えれば考える程に、天野という大きい存在の支えになっていいのかと悩んでしまう。


 望んでいるようで、望んでいない。

 俺は天野と付き合いたい、アイドルとしての天野を支えてあげたい。

 体だけの関係ではなく、心から天野と関係を築きたい。

 しかし、やはりどこかで怖い自分がいる。

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