第45話 裏がありそう

 しばらく車を進めると、青木さんは天野に指示された通り、道中にあったコンビニに車を止める。


「ホントにいいわけ? 家まであと1キロくらいしかないんだけど」


 心配そうに振り返りながら言う青木さんに、


「気にしなくていいから、萌花ちゃんも早い家帰って休みなよ~」


 と、ドアを開けながら軽く返事を返す。


「ほら、瑞稀くんも降りるよ」


「お、おう」


 俺も促されるまま車を降りる。

 まぁ、車に残ってたってなんか気まずいしな。それに天野を一人で家に帰すわけにはいかない。


 ただでさえ夜道は危ないのに、プラスαでアイドルという更に目を付けられやすい存在だ。

 いくら変装しているとはいえ、危険がゼロになったわけではない。


「この能天気アイドルに突き合わせちゃって悪いね~」


 車の窓を開けると、片目を閉じながら小声で俺に言ってくる青木さん。


「いえいえ、天野があーゆ性格なの知ってますから」


 少し離れた場所でクルクルと回る天野を見て、俺はクスっと笑う。


「いいね、そうゆう関係性。いちごちゃんには大切な存在だよ君は」


「……大切ですか」


「一人でもいいから、いちごちゃんが心を許せる人が居てよかったと本当に思うよ私は」


「許せてもらえてるんですかね……」


「それは瑞稀くんへの態度で分かるんじゃない?」


 帽子を被り直すと、含み笑いをして車の窓を閉める。

 態度……会った時から特に変わってないような気がする。

 強いて言えば、天野が求めてくる頻度が増えている事しかない。


「じゃ、瑞稀くん行こっか」


 後ろから声を掛けてくる天野と一緒に青木さんへ頭を下げると、車は静かに去っていった。


「行くって、家へだろ?」


 天野の家の方面へと歩きながら、俺は言う。


「もちろん家方面には向かうよ?」


「なんだその裏がありそうな言い方は……」


 不安でしかない。

 方面って他にどこに行くんだよ……正直、今日はもうどこにも行きたくない。

 俺も待ち時間とかライブで疲れてるし、天野なんか俺の10倍は疲れてるしな絶対。

 今日は大人しく帰って寝たいものだ。


「今はそんな事いいとして……風が気持ちいね~」


 スカートをひらりと揺らしながら、俺の前をスキップする天野。

 どこからその元気が出てくるんだ。疲れて死にそうになってるのがライブ終わりのアイドルだろと思うんだけど普通。


 何万人の前でライブをやって……てかその前に俺ともヤって元気な天野は体力お化けだ。


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