第44話 帰り道
ライブが終わり、時刻は夜の9時を回っていた。
夜風か心地よく吹き、まだ会場付近には余韻に浸っているファンや出待ちをするファンで溢れていた。
そんな光景を窓から眺めながら、俺と天野は青木さんが運転する軽自動車で帰宅していた。
「いやぁ~、大成功だったねぇぇ~!!」
ハイテンションで、天井を叩く天野。
「大成功だよ! ミーティングで色んな業界の関係者から仕事の依頼来たし、もう最高よ!」
ふるーつぽんちが大成功しただけではなく、マネージャーの青木さんにも仕事が舞い降りてきたらしい。
それも高ギャラなモノが数本。
「このライブでふるーつぽんち、いや! 私の知名度はもっと上がったし! これから国民的アイドルじゃなくて世界のアイドルって呼ばれるように頑張るぞぉぉ~!」
キャッキャと弾ける笑顔を見せる。
天野自身も、このライブは楽しめたようだし、通してアイドル活動にやる気を見いだせたようだ。
「んでんで! 肝心なのは瑞稀くんからの感想だよ!」
シートベルトが歯止めになっているか、それでも天野は止まることなく俺にグーンと近づいてくる。
会場を出る時に『いちごちゃん』とバレないように変装して、帽子と眼鏡、マスクをしているものの、興奮している様子がそのガードを貫いて伝わって来る。
「ちょ、くっつき過ぎなのでは?」
「そのくらい私は瑞稀くんからの感想を楽しみにしてるんだよ!」
フンスと鼻を鳴らしてキラキラとした目を向けてくる天野。
そんな天野に、俺はため息を吐きながらも、
「めちゃめちゃよかった」
「でしょでしょ‼ やっぱ今日のはピカイチでよかっよね⁉」
「生ライブを見るのが初めてからかもしれないけど、天野がいつもの100倍輝いて見えた」
あのステージでの天野の姿。
脳裏に焼き付いている。一生忘れることはないだろう。
「ラストの曲の時さ、瑞稀くんステージの前来てたでしょ?」
俺の鼻を人差し指でツンとつつく。
「そうだけど、気づいてたのか?」
「もちろん! だってウインクしたじゃん?」
一瞬目が合ってウインクされたような気がしたけど、あれはパフォーマンスじゃなくて俺へ向けたものだったらしい。
なんか嬉しいな。
「あ、萌花ちゃん次見えたコンビニで止まって」
唐突に話を途切り、運転席へと顔を覗かせる天野。
「え? もうすぐ家着くけど?」
急に言われた青木さんも、チラッと天野の顔を見て不思議そうな表情を浮かべる。
「いいからいいからぁ~! 夜風に当たってライブの余韻に浸りながら歩きたいの!」
「なら車の窓開ければよくない? それに疲れてるのに歩くわけ? 私が家まで送ってあげるのに?」
「グチグチ言わないで降ろしてよぉ~。私だって『いちごちゃん』だってバレないように変装してるし大丈夫だって~」
「んなこと言われてもね~……私は2人を無事に家まで送り届けるのも仕事だからね~」
「マネージャーが国民的アイドルに向かって口出しするかな~普通。減給させるよ?」
「はい、すぐに降ろします」
減給とリアルな話を冷血な声で言う天野に、青木さんは背筋をビクッとさせながら早口で答える。
マネージャーってこんな権限ないものなのか? ていうかライブで疲れてるだろうに、わざわざ家の手前で降りて歩くの普通に二度手間だろ。
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