第43話 輝き

 どんな寂しくても、どんなに辛い事があっても、ステージ上ではみんなに笑顔を振りまく。

 嘘で固められた笑顔を。


 それが、アイドルとしての仕事。

 求められるのは、そう、アイドルとしてみんなに『愛してる』と笑顔を振りまく天野。

 本当の天野なんでどうでもいいというのが、ファンの意思だろう。


 自分が思っていなくても、それはただ気付いていないだけ。

 もし、街中で偶然『アイドル』ではない天野と会ってファンですと声を掛けて、知らないフリをされてみろ。


 これまで『愛してる』とか『好き』とかファンに言っていた天野に彼氏が居て『彼氏を愛してます』などと聞いてみろ。

 ファンはその言葉に怒り狂う。

 ネットで叩き、ライブ会場で暴れ、さらには嫉妬からストーカーというのもあり得る話。


 みんなが見たいのは、偽りの天野。


 キラキラと輝いた笑顔で歌って踊り、ファンに元気を届ける国民的美少女アイドル。

 そんなのどれも幻想なんだからな。


 しかし、今目の前で笑顔を作り、手を振って歌って踊る天野はいつもと少し違う気もする。


 ビジュアル、歌声、ダンス。すべてにおいて完璧な事には変わりない。

 ファンの目からは何も変わらないいつもの『いちごちゃん』に見えるだろう。

 だが俺には違って見える。


 一瞬だけ合う天野の瞳。刹那、心を打ち抜くようなウインクを飛ばしてくる。

 その奥から透き通るように見える感情。

 心の奥底から楽しんでいる、自分を見てと主張してくる。


 この笑顔は、偽りのない本物だ。

 別に、ライブ映像やPⅤを見ても特に可愛いなどしか感想など出てこない俺であったが、今日のライブ、いや今日の天野にこれだけは言える。青木さんもこれを俺に見せたかったのか。


 ファンの熱気と歓声、心臓に響く重低音、目に刺すように光る照明。

 そこに加わる天野の感情。


 これらがすべて合わさって言えることでもあるだろう。

 ステージに立つ天野は輝いて見える。



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