第42話 いちごミックス
「ついにラストの曲になったね――」
「外、出るか」
ラスト前、天野のMCが始まると、俺は席を立ち上がる。
いいものが見える。
そのいいものが、何かは分からないが、見る価値はありそうだ。
「ん? 瑞稀くんどっか行くの?」
何やら机に向かってペンを走らせる恵那さんは、顔を上げる。
「ちょっと青木さんに呼ばれたので行ってきます」
「りょうか~い」
「恵那さんななにしてるんですか?」
遠目から見る限りだと、スケッチブックに図面のようなものを書いている。
「今ね~」
と、そのスケッチブックを持ち上げ、
「ふるーつぽんちの新しい衣装考えてるんだ~」
キリッとした顔でポーズを決める。
「新しい衣装……」
「なんかライブ見てたらいきなりアイデアが湧いてきてさ~、手が止まらなくて」
「すごいですね」
「今日のライブ見てると、なんか自然と降って来るんだよね~、いつもと違う感じがするよ」
「違う感じですか……」
ふるーつぽんちのライブは画面越しにしか見たことがなかったから、生での違いは分からない。
でも、恵那さんには違ったように見えたらしい。プロは見る観点とかが違うのか。
「それじゃ、俺はこれで」
「いってら~」
軽く会釈をすると、俺はドアを開けて会場へ足を踏み入れる。
「すげーなやっぱ」
熱狂が響き、熱気も最高潮に達していた。
ステージに目を向けると、会場を見渡しファンに最高の『アイドル』を見せている天野の姿。
ファンと同様に、俺も天野に見入っていると、
『いちごミックス!』
一瞬会場が暗転すると、スポットライトに照らされる天野。
目をつぶり、胸にそっと両手を添えると、
ポップで軽快な音楽と共に、天野は煌びやかに踊り始める。
ラストの曲である『いちごミックス!』は、いちごちゃんの代表曲。
ふるーつぽんちの楽曲の中でもMⅤ再生数が群を抜いて高く、アイドルグループであるはずなのに、天野が単体で歌うというソロ曲がオオトリに来ている。
それくらい、ふるーつぽんちにとって天野の存在は大きい。
青木さんも言っていた。天野は才能の塊、彼女がふるーつぽんちを作っていると。
どのライブ映像を見ても、今日のライブだって、どの曲、どんなMCだって天野が目立っていた。
「心にいちごシロップを掛けて☆甘い心にしちゃお♪」
洗練されたキレのあるダンスと歌唱力で、今日一番、会場を盛り上がらせる。
抜かりない、純粋無垢で透き通っている笑顔を向けるところもプロそのものだ。
しかし、この笑顔が偽りの笑顔か本当の笑顔かは分からない。
なにせ、アイドルというものは嘘で出来ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます