第41話 何かが違う
『さぁ~いっくよぉ~!』
「お、始まったみたいだね」
一気に室内が暗くなり、ステージが煙と明りに包まれる。
スポットライトに照らされながらステージ上に姿を現す3人組。
『ふるーつぽんち☆のファンのみんな~! 今日は甘々な時間を一緒に過ごそうね~!』
「「「おぉぉ~!」」」
センターである天野が観客に声を掛けると、ファンはこれでもかと熱狂する。
『じゃぁ、最初の曲いっちゃうよ~! みんな準備は出来てるかなぁ~?』
「「「いえぇぇぇい‼」」」
『セカンドシングルから、『フワッと果肉♪』』
照明が一気に暗転すると、七色のライトが室内に反射し、イントロが流れ始める。
ステージ上には、衣装に身を包んだ天野こといちごちゃんとめろんちゃんとみかんちゃん。
ペンライトを必死に振るファンに向かって笑顔を作り、手を振っている。
曲が始まると、ヘッドセット越しに歌が始まる。
この曲は、天野が主に歌う場面が多かったような気がする。そのためか、他のメンバー2人の振付が天野よりキレのあるモノになっている。
マジックミラー越しにステージに釘付けになっていると、
「どうだい。生で見るいちごちゃんは」
俺に顔を近づけて耳打ちしてくる青木さん。
「やっぱ、プロなんだなって何度も実感させられます」
「感想はそれだけかい?」
「あとは……可愛い」
「そうそう。私はその反応を聞きたかったんだよ」
と、嬉しそうに俺の背中を軽く叩く。
掴みは大成功。
最初から会場の熱気はMAXになっている。
「でも、同時にやっぱ、アイドルはアイドルなんだな~って思います」
「というと?」
「作ってる笑顔、素の天野が出てないっていうのが率直な感想ですかね」
仕事だから仕方ないかもしれないが、心の底から楽しんでいないような気がする。
天野はアイドル活動が楽しいと言っているが、それが笑顔と直結しているとは限らない。
アイドルは嘘の塊。
ファンに理想の姿を偽っているからな。
それを、誰よりも俺が一番知っている。
「素の笑顔を見せるっていうのは難しいことだよ」
ステージをボーっと眺める俺に、青木さんは遠い目をしながら言う。
「私もアイドルしてた時は意地でも笑顔を作ってライブしてたかね。握手会とかイベントもだけど、ファンに夢を見せてあげるように必死で」
「笑顔ってただでさえ難しいのに」
「自然に出来るようにはなるさ。でもそれがロボットみたいとか機械的で気持ち悪いとか言われることがあるけどね」
「大変ですね……」
「いちごちゃんは自然な笑い方や表情は出来てるけど、やっぱまだどこかが足りないね」
「……こことは断定できないけど、俺もそう思います」
具体的に言ってみろと言われたら分からないが、絶対的に何かが掛けている。
「ま、ラストの曲で瑞稀くんの不安は解消されると思うけどね」
青木さんはフッと小さく笑うと、ドアを開けてⅤIP席の外から出て行く。
ドアが閉まる直前、ひょと顔を出して言う。
「ラスト一曲になったら外に出てきて。いいものが見れるから」
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