第37話 ここだよ

「うわー、ステージでっか……人もめちゃくちゃいるな」


 ライブ開始30分前、俺は青木さんに連れられⅤIP席へ案内されていた。

 その道中にスタッフとして観客の間を縫うように通るのだが、会場に埋め尽くされる人。

 これがすべてふるーつぽんちのファンだと思うと恐ろしい。

 数万人ものを収容できる会場が満杯になるのを見て、俺は思わず声が出た。

 改めて国民的アイドルの人気が凄まじい事を実感する。


「これからもっと人がくるから今より凄い事になるよ」


 前を歩く青木さんは、小さく笑う。


「お祭りじゃないですかもう」


「日本最大級の祭りだね、アイドル好きからしたら。会場内だけじゃなくて、外にもわんさかと人がいるよ」


「なんで外までいるんですか?」


「チケット外れた人が物販だけ買いに来たり、あとは音漏れを聞きに来たり色々さ」


「音漏れですか」


「有名アーティストのライブだったらよくある事さ。そのくらいみんなライブを楽しみにしている」


「……凄いですね」


 本当にすごい。

 この中の8割が天野を推していると考えると、俺と関係を持っていることが不思議で仕方がない。

 話で聞いているだけではなく、肌で間近に感じると改めて天野の存在の大きさが分かる。


「さ、ここだよ」


 ステージのすぐ近くにあるコンテナのような建物の前で止まる青木さん。


「ここがⅤIP席ですか」


「そうそう。見えないでしょ」


「ですね……スタッフがいそうな雰囲気を感じます」


「ファンはみんな音響とか照明の関係者の控室だと思ってるから、あながち間違いではないけど」


「やっぱりですか」


「まぁ、こんなところで立ち話もなんだから早速中に入ってくれたまえ。あ、あと――」


 と、青木さんは俺の耳元に顔を近づけると、


「中にいる人には、絶対に天野の友達とか言っちゃダメだからね。私がカバーするけど、ずっといれるわけじゃないから先に言っておく」


「……分かりました」


「何か聞かれたら、私の仕事仲間とでも言ってくれればいいから」


「……了解です」


 そうか。ここの中にいる人たちは皆メンバーの友達だったり、業界の上の人。

 俺の素性がバレたら速攻で色々なところに話が回る。

 発言には細心の注意を払おう。


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