第34話 一番人気なの私だし?

「疲れたぁぁぁぁ~~」


 お昼過ぎ、クタクタな様子の天野はドアに持たれかかりながら部屋の中に入って来る。


「お、お疲れ様……ってかわいい」


 椅子まで肩を貸してあげようと、手を伸ばすと俺の目は天野に釘付けになる。

 白をベースに、パステルカラーとトレドマークのいちごが散りばめられた衣装を身にまとっている姿に。


 そして、リハーサルで動いたからか、汗がしたたっている。エロい。


「ふっふん、可愛いでしょ」


 褒められたからか、天野は立ち上がり、ドヤ顔でポーズを決める。

 やはりふるーつぽんちの衣装は可愛いな。でも特に今回のは群を抜いて完成度が高い。

 大切なライブだからか、気合が入っているような気がする。


「こんな衣装、天野以外が着たら絶対に似合わないなコレ」


「でしょ~? 一般人が着たら衣装に人が負けちゃうってぇ~」


「そのくらい天野が輝いてるってことだな」


「……そう、だよ? なにか問題でも?」

「いや、ただ可愛い」


「………そりゃどうも」


 威勢が良かった天野は、褒められまくったからか頬をじんわりと染める。

 押しに弱いよな、天野。将来飲みサーとかに言ったら絶対お持ち帰りされるタイプ。

 幸いなことに、そんな機会一生来ないだろうが。


「んで? リハ終わったのか?」


 天野を椅子に座らせ、うちわで扇ぎながら言う。


「終わったよぉ~、でもまたライブ一時間前に会議があるの~」


「青木さんも忙しそうだったけど、やっぱ出演者の方が忙しそうだな」


「当り前じゃん? 私が主役なわけだし?」


「私達じゃないんだ」


「メンバーは私の引き立て役よ。一番人気なの私だし?」


「間違いじゃないんだけど……」


 いくら仕事だけの関係性だろうが、もっとお互いを高めあってもいいのではないか?

 他のメンバーだって一定数ファンがいるし。


 前の人気投票だって、天野の支持率が80%……いや天野だけでふるーつぽんち回せるなこれ。


「萌花ちゃんも言ってたけど、ライブの立ち位置とかでも私を目立たせるようにしてるらしいし」


「へぇ~、そこまで手が入ってるのか」


「そのせいか、私のセンター曲が7曲くらいあって、疲れるんだけどね~」


 頭に水のペットボトルを当てながら机にうなだれる。


「7曲も歌ったらそりゃー疲れるわな」


「あとは、メンバー各のセンター曲1曲づつやって、それ以外はみんなで歌う曲なんだけど、私のパートが多いからなおさら疲れるんだよね」


「……重労働だ」


「しかもリハで通し一回と曲何十回と歌わさせられたんだよ⁉ 私は完璧に歌ってるのに音響チェックとかで‼ 本番前に声枯れるっての!」


 爆発した不満が一気に漏れる天野。

 いくら天野が完璧だったとしても、ライブを成功させるには関わる人全員が完璧でなければいけない。


 今日は大切なライブだからいつもより入念なはずだ。

 疲れるのも無理はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る