第28話 関係者の力

「もうすぐ着くけど、準備は大丈夫?」


 しばらく車を走らせていると、少し遠くにライブ会場である武道館が見えてきた。


「ここでライブするのか。すげーな」


 遠くても存在感のある武道館に俺は関心していると、


「驚くのはまだ早いよ~、あと1時間後にはもうここら辺に渋滞ができてるよ~」


「ここまで渋滞するのか」


「武道館の周辺1キロは人で溢れかえって、電車は満員。駐車場なんてどこも空いてないからね」


「ニュースでよく見るけど、そこまですごいとは思わなかった」


 よくニュースでは、何万人もがふるーつぽんちのライブに足を運ぶと報道されているが、それがどのくらいの規模なのか想像がつきにくかった。

 しかし、生々しい状況を聞くと、凄まじいことが分かる。


「まぁ関係者はそんなの関係ないし、裏から入るからどうでもいいんだけどね~」


 青木さんはそう言うと、車は武道館の地下へと入っていく。

 絶対に一般人では見られない光景だ。

 地下駐車場には、高級車や業務用の車両がずらりと並び、機材などが室内へと運び込まれている。


「さて、2人とも私について来なさい」


 車を降りると、先導して歩き出す青木さん。


「まずは楽屋で荷物置くから、瑞稀くんも荷物は私と同じ部屋でいいんだよね?」


 青木さんの肩をトントンと叩く天野。


「楽屋は一緒でいいけど、あんま行動は一緒にしないほうがいいかもね」


「確かに、変な噂流されてもだしね」


「そうそう。どうせいちごちゃん荷物置いたら忙しくなるし、瑞樹くんは私と行動することになると思うけど」


「俺は言われた通りに動きますよ。招待された身なので」


 天野と一緒にいたいなどわがままと言わるわけがない。そもそも言わないんだけどそんなこと。

 忙しいのは承知の上で来ているし、興味本位で来ているだけなので俺は指示に従うだけだ。


「楽屋行って、いちごちゃんはすぐ会議室で打合せ、瑞樹くんは私ととりあえず一緒にいよう」


「分かった」


「分かりました」


 返事をすると、すれ違う人たちに軽く会釈をしながら廊下を歩いて行く。


「ここだ」


 と、俺達が立ち止まったのは『ふるーつぽんち☆ 天野いちご様』と書かれた紙が張られている部屋の前であった。


「じゃ、私も準備あるし15分くらいしたら迎えくるからゆっくりしててね」


 缶コーヒーをすすりながら背中を向けたまま俺達に手を振り、歩いて行ってしまう青木さん。


「とりえず入るか」


「そうしよっか」


 天野と俺も楽屋のドアを開け、中へと入る。


 2きりの空間。ナ二かが始まるかもしれないという思考が俺の脳内を駆け巡るが、ライブ前に不純な考えはやめよう。


 なんか罪悪感が湧いてくる。

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