第27話 信用してるから
「改めて、瑞稀くんだっけ? 私は天野いちごの専属マネージャーをしている青木萌花という者だ。これから長い付き合いになるだろうし、よろしくね~」
運転しながら、軽く自己紹介をしてくる。
「ど、どうも……天野の友達の川俣瑞稀です」
「そんな緊張しなくていいんだよぉ~? ねぇ、いちごちゃん」
「雑談するより運転に集中したら? 国民的アイドル乗せた車事故らせたら社会的に死ぬよ?」
「もぉぉ~、こりゃー激おこぷんぷん丸だね」
直近でケンカしたのだろう。何が原因かは聞かないことにするが、なにか天野の気に障ったことをしたのだろう。
マネージャーならもっとアイドルに寄り添うのが普通なのでは? いや、このマネージャーならやりかねない。それがコンプラに引っ掛かることでも。
「瑞樹くんもよくこんな情緒不安定な子と仲良くできるわね」
苦笑しながら青木さんはバックミラー越しに俺を見る。
「普段からこうゆうのには慣れてるので」
「それって、高校の友達ってこと?」
「はい……天野より全然ひどいのが1人いるので」
「ちょっと」
話の間に、天野は顔をしかめて声を少し荒げながら入ってくる。
「私、別に情緒不安定じゃないんだけど? あと瑞樹くんは萌花ちゃんの話に乗らないの」
「まぁまぁ、そんなかっかせずにもっと楽しく会話しようよ~」
「黙って運転できないんですか? このままだと解雇しますよ」
「あ、はい……」
天野の脅しに、青木さんはしゅんと小さくなると静かになった。
マネージャーなだけで、天野の方が立場的にえらいのか? それとも天野が上の人にマネージャーを変えてくれとでも言うのだろうか。
そうでもしなきゃ簡単に担当を変えたりしないだろう。
「あーゆーの、ホント無視していいからね」
俺も静かにしていると、隣から耳打ちしてくる天野。
「無視は流石に無理だろ。受け答えくらいしなきゃ」
「あの人はいいんだって、私に損しかないことばっか言ってくるんだから」
「のくせになんだかんだマネージャーは変えないんだな」
本当に嫌っているなら、速攻マネージャーなんて変えるはずだ。
アイドルなんて人間関係が壊れたらすべてが終わるとネットの記事に書いてあった。
これだけ言い争っていても、2人が一緒にいるのには理由があるのだろう。
顔を覗き込むように言う俺に、
「お世話になってるし、信用してるからよ。前にも言ったと思うけど」
と、顔を背けながら言う。
はやり、なんだかんだマネージャーのこと好きなんだな。その証拠に、チラリと見える耳は赤く染まっているし。
隠せているようで、全然隠せていない。
それも、天野のかわいさでもあるのだろうな。
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