第26話 仲が良い


 変な妄想をしていると、天野からスマホを画面を向けられる。

 そこには、マネージャーから到着と書かれたスタンプが送られていた。


「じゃ、行きますか」


「おう」


 靴を履き、玄関のカギを閉めると、エレベーターへと乗り込む。

 相変わらず、このマンションにはビックリだ。


 家賃いくらか想像もしたくない。

 高層ビルの上階の3ⅬDK。嫌なことに何十万もするのは想像はつく。


 一階へ到着すると、エントランスを通り抜け、マンション前へ向かう。

 既に止まっている車、それはもう目が飛び出るような高級車かと思っていた俺だが、


「ただの軽やん」


 どこにでもある、ていうか古臭い軽自動車であった。

 少し残念そうにつぶやく俺に、


「あたりまえだー、高級車で目立ってどうする」


 車の窓から顔を出し、サングラスを下に傾ける女性が言った。


「あれがマネージャーね。言い忘れてたけど名前は青木萌花(あおきもえか)ね」


「おいおい! さんを付けろさんを!」


「……ま、こんなところで立ち話も危ないし、早く乗りましょ」


「お、おう……」


 2人のやり取りを眉を細めて見ながら、俺と天野は車へと乗り込む。


「いちごちゃん? マネージャーに対してあの態度はないんじゃない?」


 シートベルトを締めると、運転席から半身乗り出したマネージャー、青木さんはため息を吐く。


「いえ、いつもと変わらないと思いますけど」


「えぇ~いつもより冷たいんですけどぉ~⁉ もっと楽しそうに話してくれるじゃん~」


「そうですか? 多分見間違えですよ」


「ちょっとぉ~、いつから冷血少女になっちゃったのぉぉぉ~⁉」


「あなたが私に何をしたか、忘れてはないでしょうね」


 抑揚の無い声で言う天野に、冷や汗を垂らしながら、


「あの件はごめんじゃん? だからいつもみたいにラフに話そうよぉ~」


 両手を合わせながらお茶目に謝罪する青木さん。


「てか、早く車出してくれない? もう相手するのめんどくさくなってきた」


「……そうですか、私、いちごちゃんよりいつから立場が下になったのかな……」


 しゅんと縮こまると、車をゆっくりと発進させる。

 案外、2人は仲が良いらしい。


 話を聞いている限りだと敬語は使わないみたいだし。仕事仲間だけど、はやり先輩のような存在なんだな。

 多分、電話をした時にあんなにかしこまっていたのは、状況が状況だったからかだろう。

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