第12話 思っていたのと真逆

 ミュートを解除すると、恐る恐るスマホを耳にあてる。


『もしもし、お電話変わりました』


『あぁ~、君がいちごちゃんの友達ねぇ~。いい声してるじゃない~』


 電話越しから聞こえてくるのは、何やらテンション高めな女性の声。

 それも、幼い声をしている。


『ど、どうも』


『お名前教えてくれるかしら~?』


『えっと、川俣瑞稀と申します』


『瑞稀くんねぇ~、おっけおっけー。あ、そんなかしこまらなくて大丈夫だよ~』


『……分かりました』


 なんだこの謎にテンション高いマネージャーは。口調的に20代前半のピチピチ女子

 みたいだ。

 思ってたのと逆なのは来たよ。


『瑞稀くんはいちごちゃんの友達ってことでいいんだよね~?』


『はい、そうです』


『友達ね~。あのいちごちゃんにもお友達が……私感動しちゃう』


『は、はぁ』


「スピーカーにして!」


 マネージャーと電話をしている俺に、天野は小声で言ってくる。

 言われた通り、俺はスピーカーにすると、スマホをテーブルに置く。


『んで? 君がライブに来るんだよね? いちごちゃんから聞いてるけど最終確認』


『はい、伺いたいと思ってます』


『りょうか~い。ならⅤⅠP席招待しとくね~』


『ありがとうございます』


『あ、ちなみにいちごちゃんとはただの友達ってことでおっけ~だよね?』


『はい、友達ですよ』


『そっか~彼氏とかではないんだ~』


『そう言った関係ではないですね』


『ん~ならまだ途中経過ってわけねぇ~。まぁいいや』


『と、途中経過?』


『ううん、こっちの話だから気にしないでぇ~。でも、エッチする時はゴム付けなきゃダメだぞ?』


『ちょ~~!』


 マネージャーの発言に、天野は急いでスマホを取り上げスピーカーを切る。


『ちょ、何言ってるんですか⁉ 友達って言ってますよね⁉ 変なこと言わないで下さいよ!』


『――――。―――』


『だとしても! だとしても余計なこと言わないで下さい! マジでライブ出ませんよ私!』


『―――。―――』


『はい……はい。それではまた……』


 しばらく話すと、天野はため息を吐きながら電話を切った。


「なんか、凄い人だったな」


 想像の斜め上の人物であった。

 堅物の男の人より、ある意味めんどくさそうだ。

 あれは、天野もかしこまるわけだ。


「うちのマネージャー、あーゆー所あるからさ、ホント迷惑」


「でも、いい人そうじゃん。思ってた人と全然違かった」


「いい人ではあるよ? マネージャーではあるけど、なんて言うの? 先輩みたいな感じで接せるからさ」


 ムスッとした顔で口をすぼめる。そこに続けて、


「写真見る? この前PV撮った時の奴だけど」


 と、俺にスマホを画面を向けてくる。


「なん……だ、このマネージャー」


 見せられた写真を見て、俺は唖然する。

 写っていたのは、黒のウサ耳パーカーを羽織り、チェック柄のミニスカートに黒タイツ。


 天野より身長が低く、年も俺達よりずっと年下に思えるような顔立ち。

 そんなロリみたいな見た目をしている人が、衣装を着た天野と肩を組み、笑顔でピースしている写真であった。

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