第10話 VIP席
しばらくして、天野の怒りが冷めたところで、
「ライブの時って、一般の人みたいに行けばいいのか?」
スマホで来月のライブの事を調べながら聞く。
「一般的とは?」
「ほら、みんなチケット見せて係員に案内されて室内に入るじゃんか。俺もあんな感じで並べばいいのかなーって」
いくらⅤⅠP席とは言っても、最前列とかであろう。
俺は天野からチケットを貰って、他の人達同様に列に並び誘導に従って入場する。
最前列だけ別の列とかはありそうだが。
「チッチッチ~。瑞稀くん、ⅤⅠP席を舐めてますね?」
人差し指を左右に振りながら、透かした眼差しを俺に向ける。
「え、違うのか?」
「ⅤⅠP席っていうのはね。そもそもチケットっていうのは存在しないの。というか一般の人とは別次元なんさ」
「ⅤⅠPって付くくらいだしな」
「それに、ⅤⅠP席っていうのは、説明したけどメンバーの知り合いとかライブ関係者専用なのよ」
「ほお」
「まず、ライブを見るのは最前列でもない専用の部屋。音響部屋がステージの近くにあるんだけど、その横にある部屋がⅤⅠP席」
「すげーな」
「でしょ? しかも半分以上マジックミラーだから、他の観客からは目隠しされてるの」
「完全防備だ」
「それにそれに、でっかいモニターで正面以外からの映像も見られるし、ジュースとかお菓子まで無料で出てくるの!」
「いたでりつくせりだ」
これはⅤⅠP席と言われるだけの価値がある。
しかも無料でこれが楽しめるとなると……最高以外の何者でもない。
とはいっても、俺の本来の目的はライブ衣装を着た天野を間近で見ることだけどな。
欲張るなら、そのマジックミラーの部屋で衣装を着たままヤりたい。
ここまでセットなら、俺は札束を積むくらいの勢いだ。
「あと、その場所までの案内は私がするから安心していいよ。どうせ会場までも一緒に行くし」
グーンと伸びをしながら天野はあくびをする。
「マジ? それって大丈夫なの?」
ファンとかから見られたりしたら色々ヤバいんじゃないのか? あと天野と一緒に行動してたら『あいつ何者』見たいな目で周囲から見られそうだ。
「大丈夫だよ~。私の家からマネージャーが車で会場まで送ってくれるし。あ、でも私最終確認とか挨拶回りとかあるから朝早く出るけど、そこは大丈夫?」
「俺は全然大丈夫だ。送ってくれるとかむしろ助かる」
「ならよかった」
「でも大前提として重要な事あるくないか?」
「ん? なんかあるっけ」
ポカンとした顔をする天野に、
「マネージャーへの説明だよ」
と、俺は真顔で言うのだった。
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