第9話 オフショット


「よし! 瑞稀くんが来るってなったらもっと練習頑張らないと!」


 起き上がると、フンスと鼻を鳴らしながら意気込む天野。


「いつも頑張れよ」


「もちろんいつも頑張ってるよ? でも、瑞稀くんが来るならいつもより100倍頑張らなきゃ!」


「なんで俺が見に行くなら100倍頑張るんだ?」


「そりゃー、かっこ悪い姿見せたくないからでしょ」


「俺に?」


「そう、瑞稀くんに」


「ファンよりも?」


「うん、瑞稀くんに」


 そこはファンに見せてあげろよ。俺より何百倍もお金掛けてる人もいるんだし。

 俺に見せたいっていう事はぶっちゃけ嬉しい。なんか特別扱いされてるみたいで。

 ていうか、この関係がもう特別以外のなにものでもないんだけどな。


「ふるーつぽんちのライブ、暇な時に見る時あるけど、天野はいつもキラキラしてると思うけどな」


 誰もが知っているアイドルからか、天野が所属してる事もあるからか、よくライブ映像を見ることがある。


 ファンクラブ会員も、天野が『入って入って!』と強引に入れられたしな。天野の権限で俺は無料だから別にいいのだが。


 ファンクラブには、限定公開されているライブ映像やオフショット、次のライブチケットの先行販売や優先権などが得点としてついている。

 無料でライブなどが見れるんだ。それは見るしかない。


 可愛い衣装を着た天野。最高過ぎる。

 アイドルの表情をしている時と、シている時の恥じらう表情を見比べるのも最高だ。

 ……ただの変態だけど。


「私はいつだって活動してる時に気を抜いたことはないよ。キラキラしてるのは当たり前」


 胸を張る天野。


「ふるーつぽんちの中でもって話だ。3人の中で、俺は天野が一番輝いて見える」


「ん……不意打ちでそんな事言うな」


 いつもであったらドヤる天野は、頬を赤く染めながらそっぽを向く。


「何、照れてんのかお前」


「うっさい! 照れて何が悪い!」


「いつも、ムカつくドヤ顔を向けてくるからさ」


「それは私が瑞稀くんに言わせてるからでしょ! 可愛いとか色々!」


「俺から自主的に言われたら恥ずかしいのか」


「そりゃそーでしょ」


 俺の肩を軽く叩きながら言う。

 不意打ちに弱いってことか。アイドルだったらみんなに可愛いとか言われ慣れてると思うんだが。


 いきなりもなにも、四方八方から『可愛い』とか『好き』などと不特定多数から言われてるだろうに。


「国民的アイドルのこんな表情も見れるのは、俺の特権かもな」


 赤くなる天野を見ながら俺は小さく笑うと、


「なっ……! からかうのもいい加減にしろ!」


 真っ赤に染め上げた顔を器用に隠しながら、傍にあった枕を俺に投げてくる。


 ファンクラブの特典にオフショットという楽屋裏とか練習風景とか、グループのみんなとワイワイしている映像があるが、この天野の表情が本当のオフショットだな。


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