第5話 都合のいい男

「じゃぁ、教えてあげるわ」


 一度落ち着き、コホンと咳をすると、


「瑞稀くんはね、一人で作業してる私の隣に座って何も言わずに資料を作り始めたの」


「あぁ……そんなことした気がする」


「それで、『何してるの』って私が聞いたら『一人じゃこの量無理だろ』って一言だけ言って静かに終わるまで作業してたの」


「……でも、これのどこが? 他のやつより全然不審者に思えるんだが?」


「これが私にとっては気楽だったんだよね~。無駄に会話しないし、過ごしやすかった」


「変わってるな~お前」


「そりゃ~、国民的アイドルですから」


「そうゆう事じゃねーよ」


 キランと目の横でピースする天野に、俺は苦笑する。


「あーでも、そん時くらいからお前と絡むようになったよな」


 次の日から、何かと天野と会話をする機会が増えたような気もする。

 インスタをアイドル活動のアカウントの方でなく、友達としか繋がっていないアカウントでフォローされたり、クラスLINEから友達追加されたり、学校でもちょくちょく話し掛けられたり。


「あの時から私は瑞稀くんに目を付けてたんだよ?」


「どーゆー意味だそれ」


「もちろん、色んな意味で」


 色気のある目でこちらを見てくる天野。


「だから、必要以上に積極的だったのかお前は」


「バレてた?」


「なんかLINEでも事あるごとに話掛けてくるし、通話も誘ってくるし、ロケ行った時のお土産もわざわざ放課後に待ち合わせして渡してくるし」


「なんだぁ~、気づかれてたのかぁ~」


 テヘっとお茶目に舌を出す。

 学校で話し掛けられた時、周りの目が痛いから早く会話を終わらせようとしている俺に、次から次へと話題を振ってくるし。


 別に会話を無理やり切ってもよかったのだが、それもそれで周りの視線が痛い。

 どちらにしろ、周囲から何を思われるかは検討が付いている。


「逆に気づかないとでも思ったのか?」


「まぁ、気づいてなかったら私のサソイに乗らなかったしね」


 俺の唇に人差し指を置くと、小さく笑う。


 この誘いというのが、俺達の関係の始まりであった。


「ただ都合のいい男にされてる気しかしないんだよなー」


 実際、天野にとってものすごく都合がいい男だぞ俺は。

 空いている時間があったら、天野は俺を自宅へ呼び出し、エッチする。

 ついでに一人暮らしだから料理や洗濯、掃除まで手伝わせられるんだからな。

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