第16話
「お二人はどうしてアルディオンに行ったんですか?」
エスペランサたちがいなくなって、ヒロは残った二人に話し掛けた。
「みんな、ヒロと似たようなものよ。私は北海道の田舎に住んでたんだけど、そこに魔獣が現れたの。その少し前から、見慣れない外国人が来てるって言うんで集落で話題にはなってたんだけど。仕事帰りに宿舎になってた、その辺で唯一の民宿の前を通ったら、なんか声かけられて。いきなりだったから、私も最初この人たち何言ってるんだろって思った」
「リカさんは北海道出身だったんですね。いきなりなんて言われたんですか?」
「君にもこれが見える筈だ、って」
「やば」
「やばいでしょ。でも、タラス。じゃない、タラス様が声かけてきたんだけど。タラス様は普通の人の良さそうなオジさんだし、隣にいたミラさんは凄くデキる感じの女性だったから、二人がゆっくり説明してくれると嘘じゃないかもって思えたのよね。あ、タラス様っていうのは、教主って言って、うちで一番偉い人。ミラさんは副教主で二番目に偉い人ね。その後、実際に魔獣の襲撃があって。結局、私も信じるしかなかったけど」
「東京の前にも日本で魔獣の襲撃があったって、リカさんのところだったんですね。全然知らなかった」
教主は呼び捨てで、副教主はさん付け。ヒロはアルディオンが意外と和やかな場所なのかもしれないと、少しだけ思った。
「リカのところは、ニュースにもならないくらい被害もなかったし、落ち着いて退治できたから良かったんだよな。俺のところはヒロと同じくらい大変だったよ。俺は大学の研究室にいたんだけど、外が大変だっていう声を聞いて。外に出たら、そこらじゅうで魔獣が暴れててさ。ワイバーンぶん殴ってるエスペランサが、ガードとの出会いだよ」
「ぶん殴ってるって、絵面がツヨそうですね。ワイバーンて、もしかしてあのドラゴンですか?」
「そうそう。あの飛んでたやつ」
「飛んでるやつ殴るなんて、どうやって……」
「まあ、誘き寄せて飛び掛かるっていうか、そんな感じだよ、あの人の場合だけど。でその後、魔法使ってるところも目撃してさ。俺の場合は、もう信じる信じないとかじゃなくて、あの常人離れした力はなんなんだろうって。そう思って自分から声掛けたんだ。そしたら、俺にも力があるって言われて。それ以来、研究室の教授も巻き込んで、ずっと研究してるよ」
「アレックスさんて、研究者なんですか」
「そ、研究者兼ガード。ボストンは結構、被害も大きかったんだけど、もう四年は経つかな。あの頃は今と違って、魔獣関係の事件があっても隠そうとする流れが主流だったからな。ヒロは知らなかっただろ?」
「はい、全く」
「まあリカの所は隠す隠さない以前に、田舎過ぎて知らなくても仕方ないけど」
アレックスがリカを見て、イタズラっぽく笑う。
「田舎って言うけど、アルディオンより都会だし」
「少し前までならな。今じゃ他所の国の出先機関もある。医療機関も研究施設もできた。建設中のビルがいくつもあって、人口も増えてる。もうアルディオンの方が都会だろ」
「何、その上から目線。ちょっとアメリカの東海岸にいたからって。アレックスなんて、元々ニュージーランドの人でしょ。北海道の方が大きいんだから」
「いや、しれっと嘘付くなよ、リカ。ニュージーランドの方がデカいだろ。ていうか、デカさの話してないだろ」
「リカさん、北海道の方が小さいんですか? 一瞬、信じそうになったじゃないですか」
「信じれば良いのに。私の中のイメージじゃ北海道の方が大きいし、今でも」
リカが謎理論でなおも食い下がるので、三人して笑った。
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