第二章【暁月夜】





第二章【暁月夜】



















 この世に生きる価値のない人などいない。

人は誰でも、誰かの重荷を軽くしてあげることができるからだ。

チャールズ・ディケンズ












 「初めまして。夜焔と申します」

 「・・・あ?」

 「こちらにご挨拶をしておくよう言われましたので」

 「・・・ああ。そうなんだ。で?えっと、どこの人?」

 「今は地獄にいる者たちにどのような罰を与えるのが良いかを決める仕事をしております」

 「ああ、そうなんだ。頑張って」

 「はい。よろしくお願いいたします」

 「・・・・・・」

 夜焔という男が去って行ったあと、閻魔はすぐさまその男のことを調べていた。

 顔を見るのは初めてだったが、不穏が動きがあちこちで起こっていた時期だったこともあり、優先的に調査した。

 すぐに、あの夜焔という男が、地獄にいる鬼たちを次々に動けないようにし、1人でその壁を登りきり、門番まで殺して這い上がってきたヤバい奴ということが判明した。

 通常であればすぐに地獄へ戻すのだが、その狂気のあまり、地獄にさえ戻すのを躊躇ったのは地獄にいる者たちと、そこにいる鬼達。

 しまいには、実は仏の力を借りて地獄から戻ってきた奇跡の男だと、囃したてられた。

 地獄を管理していた幾つもの地獄の番人たちが、揃いも揃って夜焔を敵には回したくないと、夜焔をある程度の地位につけた。

 閻魔と数名のみ異議を唱えたが、そもそも地獄側が受け入れたくないと言う為、どうにも出来なかった。

 それからすぐ、夜焔は閻魔と近い地位までのぼりつめ、今ではタメ語で話してくる。

 詳しい地位は、わかっていない。

 「どうしますか、閻魔様」

 「どうするっつったってな。あいつはそう簡単に止められねえぞ」

 「放ってもおけません」

 「そりゃそうだけどよ。さすがに俺だって単体で空間の狭間になんていけねえよ?・・・あいつに頼みたくねぇなぁ」

 「心当たりでも?」

 「それか・・・」

 「他に方法があるんですか?」

 「あるにはあるが・・・」

 「もったいぶらないでください」

 「小魔さ、お前、夜焔の危険さ知ってるか?」

 「え?まあ、とても危ないということくらいですかね。そもそも、地獄の鬼を動けない状態にするだけの力がどこに備わっているのかわかりません」

 「そうなんだよ。あいつ、出生が謎なんだよ」

 「巻物に書いてないんですか?」

 「俺は読んだ記憶ねえんだよなぁ。いつ頃地獄に行ったのかも分かんねえし」

 「え、でも記録は残っているんじゃ」

 「それがな、無ぇんだよ。何処探しても」

 「探したんですか」

 「おう。これまでに読んだ巻物はだいたい覚えてっし、どこにしまってあるかもわかってる。地獄の奴にも聞いたけど、分かんねえって言うんだよな。気付いたらいたって」

 「なんですかそれ」

 「・・・もしかしたらよ、あいつ」

 「なんです?」

 「・・・・・・地獄から産まれたか?」

 「へ?ほ、本気で言ってますか?それ」

 「他に可能性があるか?」

 そう言われ、小魔は閻魔の記憶力の良さを思い出す。

 いつもはふざけたりもしているが、仕事的には何の問題もない、というよりもきっと優秀なのだろう。

 閻魔がこれまでに対応した人間たちの数はそれはもう数え切れないが、閻魔にはそのほとんどがインプットされているのだろう。

 顎に手を当てて何か考えている閻魔は、眉間にシワを寄せている。

 「ま、それを今考えたところでしょうがねえか」

 「・・・・・・」

 「小魔、ひとまず俺はちょっと抜けるぞ」

 「え、どちらへ・・・」

 「ほんとちょっとだから」

 そう言うと、閻魔はささっと部屋を出ていってしまった。

 残された小魔は、少しばかり散らかっていた部屋を掃除し始める。




 「はあっはあっ・・・もう、なんなのよ」

 麗翔の前にいるのは、思い出したくなどない過去の人物。

 女性だからと罵られ、蔑まれ、弄ばれた日の、忌まわしい記憶。

 「誰しもが抹消したい過去を持っているものだ。恥じることは無い」

 「どの口が言ってんのよ。だいたいね、私は別に恥じてなんかいないわ」

 「ではなぜ、そんなに震えているんだ?」

 「・・・・・・」

 気にしないようにしていても、意識とは関係無く引き起こされるフラッシュバック。

 脳内のどこかにずっと居続けるその記憶には、抗う術など誰も持っていないだろう。

 「知らないの?武者ぶるいっていう言葉があるのよ?」

 「震えることもなくなる。心配もない。恐怖も不安も孤独もない。今からお前が逝く場所は、何も感じない」

 「私はね、男って生き物が嫌いだったの。大嫌いだった。プライドばっかり高くて、力でなんでも制圧しようとする。力でなんでも手に入ると思ってる。救えないと思ってた」

 抵抗しようとも睨みつけようとも反論しようとも、何をしても生意気だと言われ、対等に扱ってなどもらえなかった。

 「あんたらが今殺そうとしてる奴らはね、ちょっと違ったの」

 女性男性の違いはあれども、人として、対等に扱ってくれる。

 「みんな、私を認めてくれた。私を信じてくれる」

 「女のお前は何も出来ない」

 「女だってね、悪あがきも抵抗も出来るのよ。可愛い洋服を着て、お化粧して、男に気に入られるように振る舞うだけが女だと思わないで。女は男の所有物じゃないし、お飾りでもないわ」

 「弱い者は黙って従えばいい」

 「自分が弱いことくらいわかってるわ。最低限私がやることは、あいつらの足を引っ張らないこと」

 「それも出来ないから、戒めているわけか」

 「腐っても四神を任せられた身として、絶対に引けないわ」

 「引けぬなら、引かせてやろう」

 その瞬間、麗翔の横を何かが通り過ぎる。

 それを確認しようとしたのだが、後ろから腹に何かが突き刺さる。

 確認するまでもなく、ムジナの腕だった。

 ねっとりと、麗翔の身体の中を抉るように腕をすこしまさぐったあと、肉を毟るように腕を引きぬく。

 「・・・ッ!!!!!」

 引き抜かれる前にムジナの腕を掴み、関節技を決めるつもりでいたのだが、あまりの激痛に動けなかった。

 両膝が地面についてしまう前に、麗翔はムジナの足を掴みムジナの身体を後ろへのけ反らせようとするも、腕に力が入らず、ムジナに見下ろされるだけとなった。

 ムジナは足元にいる麗翔の顔面を蹴り飛ばすと、先程自分の腕で抉ったその場所に足を置き、ぐりぐりと踏みつける。

 「ッッッ!!!!!」

 「ほら見ろ。お前の仲間たちもちゃんとやられてる」




 「くそが!」

 「実力の差があるからといって、そういう口のききかたはどうかと思う」

 「うっせぇな!!!!俺だって言いたくねえけど仕方ねぇだろ!!」

 あちこちに球体が残っているため、帝斗の行動範囲は限られてしまっていた。

 しかし、1つわかったことがある。

 球体同士はお互いを打ち消し合うということはなく、ぶつかると小さな球体となる。

 徐々に大きくなるわけではなかったため、帝斗はひとまず安心する

 上手く移動しながら、自分の周りにある球体を少しずつ小さくしていき、動けるようにしていく。

 「とはいえ、こりゃ不利すぎんな」

 辻神に近づこうとすれば、手や球体を出してくるため、なかなか接近しての攻撃が出来なかった。

距離を取ったら取ったでこれまた球体を出されてしまうため、やはり身動きが取れない。

 「どうしろっちゅーんだよ」

 「他所見をしていていいのか」

 「良かねぇよ」

 他所見をしていたわけではなく考え事をしていただけなのだが、辻神に言われ辻神の方を向いた時、帝斗は足元がふらつくのを感じる。

 足元がふらついた原因は、地面が動いたからではないようだ。

 「てンめぇ、実は近距離戦闘タイプか?」

 「いや。少し力を使い過ぎてしまっただけだ」

 球体を出すことは疲れるらしく、辻神は一旦衝撃波の攻撃へと変えたようだ。

 その衝撃波が帝斗の耳を掠めたらしく、それだけで脳が揺らされ、帝斗は耳鳴り、頭痛、足元がふらつくなどの症状が出た。

 帝斗は耳を押さえながら、軽く舌打ちをする。

 「今まで散々、なんだこいつっていう奴らを相手にはしてきたけどよ、あくまで俺たちのフィールド内での戦いだったからなぁ」

 「強い者は場所を選ばぬ」

 「ああ、それな。それは俺も同意するよ。そうなんだろうけどよ。でもそれってフェアな相手だろ?人間同士とかの話だよな?でもお前違うじゃん?人間じゃねえじゃん?すでにアンフェアなんだよ」

 「ならば白旗を上げるか」

 「嫌だよ。俺ぁ前に一回すげぇ凹んでよ。そりゃもうこの世の終わりかっていうくらいにまで気分が落ち込んだときがあってよ。あん時はさすがにやばかったな。頭ん中で知らねえバラードが流れてよ、人生終わったのかと思ったよ」

 何度も負けそうになったことはあるが、実際に“敗北”を味わったのは多分あれが初めてだった。

 それまで全く挫折がなかったのかと聞かれればそんなことは無いが、身体に沁み込むほどの悔しい想いをしたのは、といったところだろうか。

 帝斗はその時のことを思い出しているのか、辻神から顔を背け明後日の方を見ていた。

 辻神に視線を戻すと、帝斗は続ける。

 「負けたくねぇなぁ」

 まだ少しクラクラする頭に手を置くと、辻神があの球体を出せない今がチャンスだと、動き出す。

 トンファーを持っている手を辻神に向けると、それを衝撃波で砕こうとする。

 トンファーと衝撃波が激突すると、そこはすごいビリビリとし、それでも帝斗は引くことをせず押し続ける。

 するとトンファーは粉々に砕けてしまうも、帝斗は砕け散る前に手を放し、辻神の顔に蹴りを入れる。

 「くそ」

 「惜しいな」

 辻神は帝斗の蹴りをいとも容易く腕で受け止めると、そのまま腕を外に向け、帝斗の足を弾くように動かす。

 それほど大きな動きでもないのに、帝斗の身体は宙を浮き、飛ばされてしまう。

 「ってェ・・・」

 壁があるのかはわからないが、どこかに打ち付けられた感覚があり、帝斗は背中を摩りながら立ち上がる。

 「ちなみにさ」

 答えてもらえるか、いや、答えてもらえない確率の方が断然高かったが、帝斗は辻神に聞いてみる。

 「あの変な丸いやつを出すのに、あとどのくらいかかる?」

 「小一時間と思われる」

 「教えてくれた。親切だった。ただ、小一時間というのがざっくりしてる」

 「時間など関係ない。あれを出さずともお前は殺せる」

 「じゃあ出さないって約束な。出せるようになっても出さないって約束だからな。指きりげんまんしようぜ」

 「・・・・・・」

 「おい、男に二言は無ぇよな。ほら小指出せよ」

 「・・・・・・」

 「いや、ダメだ出すな。小指に触れてさっきみたいなドカン!ってのが小指に当たったら大事故だ。俺の可愛い指が吹っ飛んじまう。じゃあ指はいいや。出さないって言え。誓え」

 「・・・・・・」

 「こいつ絶対出すじゃん。出さなくても殺せる、とか言って絶対出すやつじゃん」

 「・・・・・・」

 「黙るし。黙っちゃうし」

 じりじりと両腕をあげた状態で、まるでレスリングでもするかのように辻神に詰めよる帝斗だが、自分が先に辻神の指に触れてしまいそうでなかなか踏み出せずにいた。




 帝斗がそんなことをしている間、鳳如は目の前の男のことではなく、別のことを考えていた。

 ここの空間に来て早二時間ほどだろうか。

 体感ではそのくらいなのだが、実際にどのくらい経っているかはわからないし、ここが外の世界と同じ時間の流れなのかもわからない。

 ただひとつ確実なことがある。

 「・・・・・・」

 「・・・何を考えているか、当ててあげようか」

 「結構だ」

 「だいたいわかるよ。君は他の奴らとは違う」

 「そういう言われ方をするのはあまり好きじゃねえな」

 「どうしてだい?君は特別なんだよ?それはとても素晴らしいことだ。他の人間よりも優れており、強く、それでいて死ねない。ああ、最後のは余談だったね」

 「てめぇみてぇなのとは合わねえんだよな。昔っから」

 「どうしてだろうね」

 「そもそも比較されんのは好きじゃねえ。個性っつーもんがあんだ。比較して優劣つけんのは違ェと俺は思う。俺が例え、お前の言う“優れて”て“強く”て“死なない”男だとしても、俺は嬉しくねえ」

 「比較されることで人は成長すると思うけどな」

 「競争社会じゃそうかもな。けどここは違ェ。競争してんじゃねえ。1人1人が自分の持ってる力出し切って、出来ること必死にやって、仲間のために戦うんだ」

 「君の口からそんな言葉が出るなんてね。仲間のためか。うん、素晴らしい。どれだけ長く生きようとも、呪いをかけられようとも、人間は自分より優先出来ることがあるんだね」

 「人の神経逆撫でするのが上手いって言われるだろ」

 「初めて言われたよ!俺のことをよく見てくれているね、嬉しいよ。長所として覚えておこう」

 「長所じゃねぇ、短所だ。言い方換えりゃあ長所になるかもしれねえけど今の俺の言い方は短所の方だ」

 どうもペースがつかめない夜焔に、鳳如はため息を吐く。

 どうしたもんかと思っていた鳳如だが、それよりも考えなければいけないことがあるのもまた事実だった。

 多分自分しか知らないだろうと思っている鳳如は、夜焔とそれほど身にもならない話をしながら、思考を巡らせる。

 「君は死なないかもしれないけど、他のみんなは死んじゃうかもよ?そしたら君はどうするんだい?また新しいメンバーを探す?何度も何度もそうやってきたんだろ?普通の人間はすぐに死んでしまう。君は死なない。何人も死んでいき、入れ替わるメンバーたちは、一体何の為に戦っているんだろうね?」

 「・・・・・・」

 「何十年も何百年も何千年もずっとずっとずっと、君は独りのまま。その間、どれだけの人間が犠牲になっていくんだろうね。君は考えたことがあるかい?」

 老いることも死ぬことも出来ない人間などいるものだろうか。

 この世に無限など存在しない。

 時間や空間でさえ、きっと限りがあるはずだ。

 「俺は独りになったって戦う」

 「孤独とは、人間や動物の多くが敬遠するものだ。支えが欲しくなるんだよ。だから君も、いつだって仲間を探してる」

 「違うな」

 「違わないさ。以前、仙心に聞いたことがあるんだよ。なぜわざわざ“4人”も必要なのかとね。仙心は言っていたよ。人柱なのだとね」

 「・・・違う」

 「ふふ。面白いね。結界のためだなんだのと言いながら、彼らを集めたのは自分のためなんだよ、鳳如」

 「・・・・・・」

 どこから吹いてきたのかもわからない風が、鳳如の髪を靡かせる。

 いや、そもそも風が吹いたのかさえ定かではない。

 「君はどうしてあのメンバーを選んだんだい?もっと良い人選が出来ただろうに」

 「・・・不満か?あいつらじゃ」

 「ああ、そうだね。俺がもし君の立ち位置なら、選ばないだろうね。何しろ」

 1人は負けず嫌いなだけの女性。

 1人は過去の自分を引きずる青年。

 1人は感情のままに動く勢いだけの男。

 1人は他人との関わりを持ちたがらない男。

 「戦略、定石、守備、攻撃、色々備えたいものはあれども、あれだけ役に立たない人間は選ばないだろうね」

 「役に立たねえ?」

 「そうだね。これまでの戦いもちょっと見ていたけど、まあ、頑張ったときもあるかもしれないけど、俺から言わせれば力不足だね。これまでなんとか勝てたのはたまたまだ」

 「運も実力のうちって言うけどなぁ?」

 「一体どういうわけか、ぬらりひょんたちは君たちについたんだろうね」

 「てめぇらと合わなかったからだろ」

 「そんなことないと思うよ。類は友を呼ぶ。強い者は強い者と一緒にいるべきだ。そこで、君だけならこちら側についてもいいよ?」

 「くだらねえ。言っただろ。てめぇと合わねえンだよ」

 「残念だな。じゃあ、どうしようか」

 「戦るしかねえなぁ」

 「勝てるかな?」

 「勝つ必要はねえ。負けなけりゃいいだけだ」

 「それが難しいんだよ、鳳如」




 酒呑童子のよくわからない攻撃を避けている煙桜は、鳳如と同じことを考えていた。

 「(辻神の仕業ってことは、ここに長くいるとまずいな。前にあいつの部屋で読んだ本に書いてあったなぁ)」

 ―現世と来世の狭間にいる者

 ―その空間に入れし者は・・・

 「(ったく。あいつはこのこと当然知ってるだろうが、他の奴らは知らねえだろうな。まあ、知ったところで解決策があるわけじゃねえけど)」

 「何を考えておるんじゃ?」

 「こっちにはこっちの都合があるんだよ」

 「そう都合良くいくと思うな」

 酒呑童子が掌を煙桜に向けるだけで、そこから光の弾が出てきて、煙桜目掛けて飛び交っている。

 身体を避けたり大鎌で弾いたりしているが、あまりにも多く攻撃をしてくるため、煙桜は身体を捻ったりもして回避する。

 まだ手加減されているなど重々承知だが。

 しかし、手加減されているならば今倒してしまえばいいと、煙桜は大鎌の柄についている錘で酒呑童子が呑んでいた酒の瓶を壊してみる。

 自分がされたらさぞかし怒るだろうが、自分が呑みたいときに目の前で飲まれているのがもっと嫌なのだろう。

 酒瓶を壊された酒吞童子は、しばらく地面に落ちた瓶の破片と、自分の手に滴る酒を眺めていた。

 「・・・・・・」

 「悪いな」

 「・・・あの若い衆の中では一番の古株か?」

 「若い衆ってのがどこまでのこと言ってんのか知らねえが、あそこの阿呆以外だったらそうだな」

 そう言ながら、煙桜は鳳如の方を親指でくいっと示す。

 見た目だけでいうと、煙桜よりも鳳如の方が若いため、確認をしたようだ。

 ちゃんと話を聞いたことはない。

 それでも、鳳如の身に昔何か起こったであろうことは理解している。

 「何年じゃ?」

 「あ?覚えてねぇよ、んなこと」

 「こんなことをしていると、若い者がどんどん死んでいくじゃろう」

 煙桜が西を担う様になって、何人の部下がいなくなり、何人の仲間が亡くなっただろう。

 いや、ここには天に召されただけではなく、煙桜と合わずに辞めていった者たちも含まれてはいるのだが。

 もともと人との距離の取り方が分からず、1人で行動することが多かったためか、なかなか馴染むことが出来なかった。

 「なかなかおらぬぞ。そこまで生きている者は」

 「褒められてる気がしねえな」

 「自分が生き抜くことに必死で、他のことは気にしておらぬか。そういう奴が長生きすると相場は決まっておる」

 「そんな心算はねえんだけどな」

 「本人にそのつもりがなくても、周りから見ればそういうことになるのじゃ。現に、前の四神の1人はそう言っておったぞ」

 「あ?」

 「いつじゃったか、どこかの国でちいと悪さをしておったときに会ってのう、命を懸けて戦っても尚、誰にも認めてさえもらえぬと嘆いておったわ。じゃから、自分のためだけに戦っておると言っておったわい」

 「鳳如の野郎、変な奴雇いやがって」

 「どれほどの信念や正義を持っていようとも、自分の命の危機を感じたとき、本性というものが出るものじゃ」

 「それを覚悟して入ってきたんだろ。いつ死んでも後悔のねえように今を生きてんだからよ、こっちは」

 「それは歳を重ねれば出来るじゃろうが、若いと困難じゃ。何しろ、人生経験をさほど積まずに、私らのような存在と対峙し、戦うのじゃから」

 「つーかよ、ずっと思ってたんだが」

 「なんじゃ」

 ちら、と辻神の方を見ると、同時に鳳如もそちらを見ていることに気付く。

 そして2人は、同時にこう言うのだ。

 「「なんていうか、チートなんだよ、能力が」」




 「え、辻神の空間にずっといると死んでしまうんですか」

 「そ。てか水頂戴」

 「はい」

 どこからか息を切らしながら戻ってきた閻魔は、時間を確認していた。

 小魔が持ってきた水をぐびぐびと一気に飲みほすと、それでも足りなかったらしく、部屋に常備してあるコーヒーメーカーに手をつける。

 「言ったろ?辻神は現世と来世の狭間にいる。つまり、すぐそこは現世だが、同じようにすぐそこにあの世があんだよ」

 「・・・来世ですよね?」

 「タイムワープじゃねンだ、来世にはいけねえ。行けるとしたら辻神だけだ。他の奴らはみんな空間の狭間でねじれて死ぬ。つまりあの世逝きだ」

 「ずっとというのは、どのくらいの時間なんですか?」

 「多分半日くらいか?」

 「それは何かで確認がとれるのでしょうか?」

 「取れねえし、取れたとしても抜け出す術はほぼ皆無。ま、俺が抜け出せるけどな」

 「何か手は無いんですか?」

 「辻神を倒すか、もしくは・・・」

 「もしくは?」

 淹れたコーヒーが少し熱かったのか、閻魔は舌を唇の隙間から出した状態だ。

 それからカップの縁をフーフーとして、少し冷めた事を確認してから口に含む。

 「“別の”空間を扱う奴に助けてもらう、とかな」

 「別の?」

 「ここから先はちょいと企業秘密だ」

 「なんでですか」

 「怒るなよ」

 「怒ってませんけど」

 「顔怖い」

 「企業秘密ってなんですか。同じ企業じゃないですか」

 「ここって企業なんだ」

 「違いますけど、閻魔様の言葉を借りるなら同じ企業ってことになりますよねってことですけど」

 「怖い怖い。俺より閻魔っぽい」

 「その、別にいるということですか?辻神のように狭間にいる者が」

 「そうそう。この世界は別々に存在しているように見えて、実は時空や季節、色んなもので繋がってる」

 「?」

 「Aの世界にいると思っていた奴がBに出て来た場合、そいつが何かの拍子にBを流れる時空に乗ってしまったか、もしくは誰かの手引きで空間から空間へ移動することが考えられていた」

 「?」

 「だが、そいつの存在が見つかり、単なる時空移動ということではないと分かった」

 「?何のお話しですか?」

 「辻神とそいつと、どっちが先に生まれたかって話だ」

 「生まれた?」

 「いいか小魔、よく考えてみろ。辻神は“現世と来世の狭間にいる”だろ?」

 「はい」

 「つまり、辻神は狭間からは出られねえ」

 「え」

 「自分のいる狭間に引き寄せること、押し出すことは出来るが、自分がそこから出ることは出来ねえ。無理にしようとすれば、他の奴らを同じように辻神も引き千切られる。時空や空間といったもの全てに潜りこめるのは、別の奴なんだよ」

 「ええと・・・辻神は狭間にいるだけで、時代や時間、時空などの移動に関しては一切関与出来ないと?」

 「ま、そんな感じだ」

 「では、なぜ今回夜焔さんと?」

 「・・・夜焔の出生がわかればなぁ」




 「ほら、どうした」

 足元に転がっている琉峯を蹴飛ばして、ガラナは笑う。

 気付けば、琉峯の右腕はない。

 自分の片腕が、身体より少し離れた場所に転がっているのを、ただ見ている琉峯。

 油断していたわけではないが、ただ1つ言い訳だと思われてもいいから言わせてもらえるなら、剣と札では太刀打ち出来なかった。

 なんとか身体を真っ二つにされるのは免れたが、身体が思う様に動かない。

 いや、訂正する。

 免れたわけではなく、わざとだろう。

 琉峯を痛めつけるのを楽しんでいる。

 琉峯は上半身を起こすと、服の一部を口と手を使って引き千切り、それを斬られた腕の止血に使う。

 身体を立たせ、落ちている剣を拾うが、すでに折られている。

 小さく呼吸を繰り返しながら、琉峯はガラナを見る。

 「痛いか?怖いか?今どういう気持ちだ?」

 「別に」

 「強がるな。お前の力はここじゃ使えない。当然だ。ここはそういう空間だ」

 「腕が無いくらいで、俺は戦うことを止めたりしない」

 「不便だなぁ。俺みたいに身体がバラバラになってもある程度戻ればいいになぁ」

 「俺は人間だから」

 「でもお前は再生能力がある」

 「それでも、俺は人間だ。再生にも治癒にも限度がある」

 「心臓が止まれば、その力も使えねえしな。だから俺がもらってやるって言ってるだろ?ここまで身体戻すのにどれだけ時間がかかったと思う?大変だったんだぜ?お前の力があれば俺はもっともっとやれる」

 「お前にやるくらいなら、ここで自害する」

 「そりゃ困ったな。けど、忘れるなよ。例えお前が自害しても、その力が無くなるかどうかは分からねえんだぞ?俺が喰って俺の力になるかもしれねぇ」

 「そうなっても、俺の仲間が阻止してくれる」

 「・・・はっ。くだらねえ。仲間仲間って、それってよ、自分がピンチの時に助けてくれるって思ってる都合の良い連中だろ?1人で戦う度胸もねえのか」

 「そうじゃない」

 「あ?」

 「俺は俺の出来る精一杯をする。それでいいんだ」

 「・・・・・・それはいいけどよ、お前のそのお仲間、やられてっけど大丈夫か?」

 そう言ったガラナは、顎でくいっとある方向を示す。

 琉峯はその方向へと顔を向けると、そこには敵と対峙しながらも血を流している仲間の姿があった。

 麗翔はお腹なのか背中なのか、とにかく身体の真ん中あたりから血が出ており、煙桜は顔や身体に切り傷のようなものが見える。

 鳳如はまだ余裕がありそうだが、一番やばいのは、左目から血が出ている帝斗だろうか。

 帝斗は腰に下げてあった布を使って目を覆い、止血になっているかわからないが、それで血を止めていた。

 「ほら、揃いも揃って足を引っ張り合ってる」

 「!!!!」

 後ろから、琉峯の耳元にわざとらしく口を近づけてそう言葉をかければ、琉峯は慌てて距離を取る。

 ガラナは琉峯をすぐ殺そうともせず、ただ楽しそうにケラケラ笑っている。

 「お前ら、俺1人相手でも大変だったもんなぁ。それが、力の使えない今、たった1人で、俺を相手にする。それは死ぬことを意味する。幾らおつむが足りなくたって、誰にでもわかることだ」

 「俺達に不利な状況を作っておいて、それで俺を殺して満足か」

 「ああそうだ。俺は別にフェアにやろうとか全然思ってねぇからなぁ。そうだろ?なんでお前らの美意識に合わせる必要がある?お前らの価値観、信義、信念、生き様?んなもんどうでもいいんだよおお!!!!・・・俺に関係あるか?俺がお前を殺すのに、なんで対等に、平等に、戦う必要がある?俺達は喧嘩ごっこしてるわけじゃねえだろ?殺し合いだ。殺し合いはなんでもありだ。ルールなんてねぇ。卑怯だと言われても、やり方が汚ねぇと言われても、殺しゃあいいんだ。だろ?」

 「・・・その『だろ?』に対して俺は同意することは出来かねる」

 「つまらねえ野郎だな。ま、真面目だけが取り柄って感じだしな」

 「別に真面目じゃ無い」

 「くそ真面目だと思うぞ。面白味がねえ」

 「面白くなる必要はない」

 「ったく。もう片方の腕もぶった切ってやろうか?いや、それとも足を切ってよたよた歩かせる方が面白いか?」

 ガラナも他の者も、まだ本気など出していないのだろう。

 ただ、ガラナは出来れば生きたまま琉峯を食べたいという願望があり、ムジナは殺すという欲求がそこまではないように見える。

 酒吞童子はどういう目的があってここにいるのかは分からないが、夜焔という男の様子を見ているようだ。

 辻神はよくわからないが、夜焔という男はきっと、何かを探っている。

 それを知っているのか勘付いているのか、鳳如は夜焔の動きや思考、視線などを自分のみに向けられるようにしている。

 「何の為にここに来た?」

 「何のことかな?」

 「餓鬼らも従えずにここに来たってことは、俺達を潰すことが第一目的ではねえ。まあ、潰すに越したことはねえんだろうが、他に目的があるな。しかも、俺や閻魔だけじゃねえ。でっけぇもんを狙ってんなぁ」

 「・・・ふふ。嫌だなぁ。そんなこと考えていないよ」

 「・・・もしかしてお前、誰かおびき出そうとしてんのか?」

 「誰かって?」

 「俺らを狙えば動き出す奴?誰だ?閻魔でもねぇ、ぬらりひょんたちでもねえ・・・」

 「詮索はその辺にしておいてもらえると有り難いな」

 「詮索だぁ?こちとらすでにあいつらズタボロだ。そのくらいさせてくれてもいいんじゃねえのか?」

 「お勧めしないなぁ。君とは言えども、加入しないほうが身のためだよ?」

 「・・・時代が動き始めてる」

 「ん?」

 「一昔前の英雄たちが年老いていく一方で、その英雄たちから意思を受け継いだ奴らが、今動き出している」

 「煩わしいね」

 「・・・そうか。お前、そいつらを一掃しようとしてんのか?」

 「蟻は見つけづらいよね。足元にいて、小さくて、踏みつけても気付かないほどに」

 「ついこの前も、ある男が殺された。だが、その男はすでに引き継いでいた。だから死んだんだ」

 「・・・君は、一体何の話をしているんだい?それに、俺の目的がわかったところで、もう止められないよ」

 「てめぇ側についてんのは他に誰がいる?」

 「仲間はずれ探しゲームでも始める心算かな?止めておくといい。君はもっと器の大きな男かと思っていたよ」

 「器の問題じゃねえだろ、これは。俺は別にどいつが敵になろうと構わねぇけど、もし、“裏切り”って形になるなら話は別だ」

 「ああ、君は裏切り者がいることも可能性として考えているわけか。そうだね。もしも今君たち側についている人間が、実は俺達の仲間だとしたら、情報漏洩や情報操作の恐れがあるね」

 顎に手を当てて、わざとらしく考える素振りをみせている夜焔は、鳳如と目が合うとにっこりと微笑む。

 「・・・・・・」

 ―いや、仮に、万が一、そういう奴がいたとしても、それに気付ける奴もいる。

 ―こいつらの仲間で、まだ俺達と出会って無い奴がいる?

 ―そうじゃない。もう動き出してるんだ。

 ―どっかでこいつらの仲間が動き出してて、俺達側の誰かを・・・。

 険しい顔をして考え込んでいる鳳如を見て、夜焔は困ったような顔をして笑う。

 「そんな怖い顔しないでよ。考えたってしょうがない。だろ?君はなにより、今をなんとかしないといけないんだから」

 「・・・・・・」

 「あ、そっか。君は死なないからいいのか!でもみんなは死んじゃうかもね?」

 そう言って鳳如以外の方へ視線を送る夜焔。

 鳳如の視線をそちらに移そうとしているのかもしれないが、鳳如はまったくそちらを見ない。

 夜焔を見ている鳳如のために、夜焔は他の状況を伝える。

 「あーあ。あの女の子可哀想に。お腹抉られてるよ。あっちの若い子も片腕無くなっちゃってるし、あっちの子は目をやられてるね。

最後の1人は持ちこたえてるッぽいけど、そろそろ限界かな?」

 「・・・・・・」

 「冷たいね、君は。仲間がやられてるのに助けにもいかないなんて」

 「てめぇに見張りを付けねえ方が危ねぇだろ」

 「そうか。じゃあ、可哀そうだけど、あの子たちはみんな死ぬしかないね。そして、今度は君が、1人標的にされるわけだ」

 「大丈夫だ。あいつらはそんなヤワじゃねぇ」




 「くそが」

 負傷した左目を後悔してももう遅く、帝斗は安易に辻神に近づいてしまった自分を責める。

 近づくことが出来ず、かといって遠距離攻撃も出来ずにいた帝斗だが、ふと、視界の端に入りこんだものに、思わず身体が一瞬固まる。

 帝斗は自分が見た物を確認しようとした。

 そこには、かつての自分を喰い物にする者の顔があった。

 「・・・・・・、そうか。”ムジナ“!!」

 その顔の正体が分かった帝斗だが、同時に背後から辻神の気配を感じ、慌てて身体をのけ反らせる。

 しかし、その避けた先に倒れている麗翔を見つけ、麗翔を移動させる。

 「麗翔!おい!大丈夫か!?大丈夫じゃねえな!」

 「・・・うるさい」

 「生きてるな!大丈夫だな!」

 「大丈夫じゃないわよ・・・。ムカつくくらいに動けないわ」

 「そりゃそうだろ。腹やべぇからな」

 治療したいところではあるが、ここは辻神の空間。

 治療道具などどこにもない。

 とにかく麗翔を動かなさいようにと、帝斗は1人、辻神とムジナに対峙する。

 「ったく。俺、そいつら見ると虫唾が走るんだよ」

 人を利用するだけ利用して、いらなくなったら棄てる。

 そんな人を人とも思っていないような。

 「だがまあ、そっちの方が都合がいい」

 帝斗はまだあの球体を出せない辻神を確認しつつ、ターバンの位置を調整する。

 「遠慮なくやれるな」

 辻神の攻撃を当たらないように避けてはいるが、ムジナとの連携が思って以上に良く、帝斗は辻神の衝撃波を腹や腰、肩などにも喰らってしまう。

 骨の軋む音、いや、折れた音かもしれないが、あの球体とは違い身体を抉られないだけマシかと思っていると、急に、何か、感じた。

 呼吸が浅くなり、帝斗は自分の身体の一部に手を置く。

 「あ・・・」

 右わき腹と左耳と、そこから血がドクドクと溢れるように流れ出てくる。

 帝斗は辻神を睨みつけると、辻神は表情を少しも変えることなく、とある場所を指さした。

 そちらに目を向ければ、倒れていた麗翔の足があらぬ方向を向いていた。

 「麗翔!!!」

 「安心しろ。死んではいない」

 「おい・・・女にも手ぇ出すってどういう根性してんだよ」

 「弱い者は消えていく。自然の摂理だ」

 そういうと、辻神は帝斗たちの方へ掌を向けてくる。

 「(やべぇ!!!!)」

 大きい球体を出されてしまうと逃げ場がなくなると、帝斗は瞬時に動き出す。

 それは思っていた以上に速く動き、辻神は一瞬、帝斗の姿を見失ってしまう。

 ぐぐぐ、と帝斗は辻神の腕を後ろから掴んでおり、その手を今出せる力で捻り、そのまま別の方向へと持っていく。

 「まだそんな力があったか」

 「火事場の馬鹿力ってやつだよ!!」

 「しかし、腕はひとつでは・・・」

 辻神がもう一方の手を、すぐそこにいる帝斗に向けようとすると、帝斗は辻神の膝あたりを反射的に蹴飛ばし、辻神がバランスを崩したところで今度は背中を蹴り、前のめりにして倒す。

 辻神のもう片方の腕は、辻神の背中をまたぐようにして足を使い地面に押さえつけると、辻神はなかなかそこから抜け出せずにいた。

 「・・・ッ!!!」

 辻神を押さえつけている帝斗の後ろから、ムジナが腹を貫通させようと動く。

 しかし、ムジナの腕は地面に縫い付けられてしまう。

 「はあっ・・・!!苦労かけたわね、帝斗」

 なんとか上半身だけ起こした麗翔が、ムジナの腕を、口と足を使って弓で射とめたようだ。

 だからといって形勢が大きく変わったわけではないのだが。

 その頃、煙桜もギリギリだった。

 これほどまでに手加減されていたのかと思うほど、酒吞童子は力を出してきたのだ。

 額から血を流し、ぶらん、と下がったままの腕は痺れているらしく指さえ動かない。

 大鎌も、鎌部分だけが綺麗に折れており、ただの棒と化していた。

 胃がふわふわしている感じがするのはきっと、先程酒吞童子に腹を蹴られたのと、その後に空気砲的な感じの攻撃を受けたからだろう。

 「無様じゃのう、人間」

 「無様で結構だ。それが人間だ。無様でもなんでも生きてりゃいいんだよ」

 「みな死にかけじゃ」

 そういって酒吞童子は辺りを見渡す。

 そこには、どこもかしこも血だらけのまま戦っている人間の姿。

 煙桜も視線だけを素早く動かして見てみれば、麗翔も帝斗も琉峯も、鳳如さえ自分と同じように額から血が出ている。

 腕も怪我をしているようだが、まだ正常に動いている。

 負けそうになったことなどいくらでもあるし、負けたこともあるが、ここまで相手に有利な状況で戦ったことなど一度もない。

 「ん?」

 酒吞童子は、煙桜が何やらポケットあたりをまさぐり出したため、何か武器か何かを取り出すのかと思ったが、違うようだ。

 煙桜は煙草を取り出して、一本咥える。

 棒だけになってしまった大鎌を放り投げると、その腕でライターを取り出し、煙草に火を点ける。

 ふー、と上を向いて煙を吐き出せば、煙はどこかへと吸い込まれるように消えていく。

 「・・・・・・」

 「自棄にでもなったか?」

 「・・・・・・」

 「戦いの最中に煙管か」

 「煙草な。それに、戦いの最中に酒飲んでた奴に言われたかねぇよ」

 「腕は動くまい。両腕を動けなくしたら、今度は足じゃ。それとも一気に首を刈るかのう」

 「・・・・・・」

 「聞いておるのか」

 「うるせぇな。今身体に沁み込ませてんだからよ」

 「何をじゃ」

 「主流煙」

 「なんじゃそれは」

 すると、煙桜の痺れていた方の腕が少しずつ動くようになってくる。

 もう一度煙を吐くと、煙桜は煙草を口から放し、その手で煙草ごと火を握りしめる。

 「俺の源だ」






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