15話:想いと掌の夢は虚構となって

 意識が遠のいていく。俺の人生もここで幕引きなのかな………。まっすぐに伸ばした腕もむなしく感情が生み出した大波に身体は無情にも流されていく。


「あっ、起きたね。もう一人のボク。」


「っ・・・お、お前。」


荒波にもまれてあやふやになっていた夢の中で出会ったもう一人の俺と二度目の立ち合いとなった。




「うん、久しぶりだね。もう一人の。とは言っても時間はないよ。今から僕たちは急いで話し合いをしなくちゃいけないんだから?」


「は?どういう事だよ。良く分からなさすぎるんだけど!?」


もう一人の俺は突拍子もないような言葉をつらつらと言い放っていく。しかし、伝えられる言葉はどれもこれも自分勝手のようにも聞こえてどこか虫唾が走る内容だった。


「なぁ、お前は何のために生まれてきたんだ??」


鏡写しにべらべらとしゃべっていた自分は俺が空気を読まず遮ったと同時に言葉を構築するのを一瞬やめた。


「お前は、誰なんだよ。もう一人の俺とは言ってるけど、明らかに姿も違う。たとえもう一人の人格だとしたら、この生まれて16年間の間何をしてきたんだ?」


「そ、それは………。」


明暗を分かつ。これを指すと言ったら明らかに否定されるだろう。


分離された魂のような存在は、何を理由に生まれたのか分からないまま感情の回廊にゆらりゆらりと、巡っていく。




「ねぇ、梓・・・」


その言葉と共に目は覚ましていく。失われていた何かもすっかり取り戻されている。


「何だ。ボクの体は戻って来たのか?」


ボクを中心にした視点からかつて主導権を握っていた体が元に戻っていた。


「うん?つか、何かどうでもよくなってきたなぁ~。女とか男とか。つか、どうして女の子になったんだっけ?」


ボクの魂の定着は不安定になっている。一刻も早くまた意識を・・・いや、もうこの状況で魂に突っ込もう。


「ん!?な、何だ・・・あ、頭がうわああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああ!!」


再びボクの視界は闇に溶け込んでいった。




「痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!!」


現実に飛び出すことのできた梓は、感情の回廊内で頭を抱えながら痛いと叫び続けていた。


空色の髪を纏った別人格の少女は、青黒の髪を靡かせる少女を目の前にぽつりぽつりと毒を吐き始める。


「君は・・・ボクの分身だろ?母さんが死んだあと、ショックで生まれた大人ぶって哀れにもがき続けては苛立ちのはけ口を見つけられず壊れ始めている贋作でしょ?君は、できなかったんだよ。母さんが亡くなったことに対する現実を受け入れられなかったんだよ。」


うっすらと笑みを浮かべながらぽつり。


一方のもう一人は、そんなもの知ったものかと言わんばかりに一歩ずつ歩みを進めていく。


「あっ、あっ、あっ………。」


「まだ、ボクは子供のまんまだ。何も前すら向けずに小さなころにかなえたかった夢すらも忘れちゃった。泣かせちゃった。傷つけちゃった。戻れなくなっちゃった。でも、時間は進んじゃった。」


2人の梓を囲んでいた真っ白な景色が、崩れ去っていく。


「でも、これ以上進めば風化する。思い出したいものも取り戻したいものも掌に掴めなくなる。だから。おいで、もう一人のボク。」


夢人格・・・基、真側の梓は、虚構で逃げ続けた梓の額をそっと触れた。


「あっ………。」


青黒髪をした梓のような少女は粒子体となって空色のした感情の核へ吸い込まれていく。


嘘にまみれた感情をしまい込みながら。


「グッ・・・い、痛いなぁ~流石に12年分のホントのような嘘の感情が、元の方の人格の情報に流れ込むんだ。無理もないね。」


二人が一人になった梓は感情の回廊の中で意識を失い、一方の現実では。


「あっ、お母さん!!義兄さんの呼吸安定し始めたよっ!!」


「えっ!?・・・ほ、ホントだわ。」


ほっと、りんとかなめは息を吐いた。


先ほどまで梓は、感情の不安定さを理由に全身に痛みが走っているような状態で、うめき声や体全体でうずくまっていたからだ。


「よかった・・・ホントに良かった。」


りんは、その日梓の体を前にずっと涙を流していた。

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