エピローグ:ホントのボクに自信を持って
「義兄さん・・・義兄さん!!」
梓の耳元にガンガンと高く穏やかではない声が鳴り響いた。
「んんっ………もう何だよ、かなめ。うるさいなぁ~。」
「に、義兄さん!!」
「うわっ!ちょっと!?ボク、そんなのはいきなり過ぎてもびっくりするんだけど!?」
かなめは梓に抱き着きながら胸にうずくまった。そして、時間が経つごとにかなめの啜り声は大きくなっていった。
「・・・ごめんね。心配かけちゃって。それと、ただいま。かなめ。」
小さな言葉で梓は、かなめに答えを送った。涙を流しながらかなめは「バカッ………。」と弱弱しく震えた声で返した。
「うわッ・・・眩し!」
「義兄さん………ホントに大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。ただ、今日はずっといるのは無理そうだけど。」
「なんかあったら連絡するのよ?倒れる前に。」
「分かってる、分かってるって。もう、かなめは過保護だなぁ~。」
かなめは梓の楽観的な口調に頬を膨らませながらも萎んではケラケラと笑みを転がし始めた。
一方の梓は、笑ってはいるものの、どこか不安な気持ちは払拭できていない状況でいた。
(ボクは何もかもを失っちゃったんだ。)
交友関係も、積み上げてきた信頼も、手にしていた個性も、すべてが嘘偽りで固められていた梓にとっての再びのリスタート。
眺めている青空のように、真っ白な雲のように梓の中の瞳は写っていた。
「義兄さん?大丈夫?上の空だけど。」
「大丈夫だよ、かなめ。ボクは大丈夫。」
大きな声では言えない、でも、前へと歩んでいく姿勢だけは立派に見えた。
「おはよ。梓、学校に行くの久しぶりね。それと梓、髪の毛・・・。」
「おはよ~紗月。あっ、これのこと?」
「そうよ。なんで、戻ったの?空色の髪に。」
紗月の質問に梓は、言いよどみながら少しずつ答えていく。そんな中で紗月の眼には少しづつ涙がたまっていった。
「ホント、小さいときみたいに明るくなったね。」
「ハハハッ・・・全部が全部ボクだ!って言えないけど何割かはね。」
梓の自虐的にも見えない笑みが紗月に浮かび上がり、彼女は少しだけ表情をしかめた。
「梓。」
名前を呼んで数歩近寄って紗月は梓のことを抱きしめた。
「ちょっ!?紗月??」
「おかえり。そして、頑張ったね。」
今じゃ変わらなくなってしまった身長差のハグに梓はどぎまぎとしながら腕を絡み返した。そこから数秒して顔を赤らめながら「ただいま。と小さく声に出していた。」
「義兄さん。それと紗月さん?ここ歩道のど真ん中なんですけど。あと、私の目の前でそんな行動を見せつけて何なんですか??」
「ふんっ、かなめだって梓の胸元で泣いてたくせに。」
「なっ!?何故それを・・・!!って、あっ。」
かなめは怒ったり頬を赤く染めては顔をうつ向かせたりと表情を百面相する。その中で梓は
「フフッ、また始まるんだなぁ~。」
誰にも聞こえないくらいの独り言を呟いては、表情を明るくさせた。そして………
「かなめ!紗月!!」
「義兄さん!?」
「あ、梓!?」
「たまには良いでしょ~!!」
二人の手を握って引っ張っていくように足を学校へ運んでいく。そんな三人の姿は幼き頃の遊んでいる姿が浮かび上がる。
葉桜に乗った露が垂れ落ちるとともに3人は駆け出していった。
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